脳には、環境や障害への適応、長期間の訓練やリハビリテーションにより特定の脳領域が機能的に再編する性質、いわゆる“可塑性”が存在する。リハビリにより脳の可塑的変化を誘導することで、脳卒中の発症により低下した運動機能や認知機能を回復させることができる。これらの機能回復に向けたリハビリとして“運動イメージ”に基づいた介入方法が用いられている。運動イメージとは脳内での運動再現であり、運動・認知機能に関わる脳領域を賦活できる。例えば、歩行の運動イメージは、運動制御において重要な役割を担う運動野、認知・計画・実行機能を司る前頭前野を賦活する(Kaneko et al. 2021 NeuroImage)。 また、運動イメージを他のリハビリと組み合わせて使用することで、脳卒中患者における運動・認知機能の回復や、脳機能の低下の防止といった臨床効果を促進できる。 以上の背景から、本研究では、運動イメージが運動野と前頭前野の可塑的変化に与える影響を解明し、脳卒中患者に対する脳刺激法と運動イメージを併用した介入手法の効果を明らかにすることを目的とした。まずは、健常者を対象として、事前介入に使用する歩行の運動イメージが皮質脊髄路と脊髄運動ニューロンの興奮性、各被験者の運動イメージ能力に与える影響について調べた。歩行の運動イメージを用いた介入後、皮質脊髄路と脊髄運動ニューロンの興奮性に変化は認められなかったが、運動イメージ能力の向上することが明らかとなった。この結果は、運動イメージ自体が中枢神経系に与える介入効果が低いことを示唆している。したがって、運動イメージを他の介入方法と併用させる必要があると考えられる。本研究成果は国際誌PLOS ONEに掲載された。
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