2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始の影響で、ロシア渡航を中核に組み込んだ初年度の研究計画は大幅な変更を余儀なくされた。具体的には当初計画していた、モスクワの国立図書館でのソ連時代の雑誌をはじめとする資料の収集や、現地での学会発表などの実施は困難となった。そこで2022年度前半は、ソ連期に非公式に活動していた思想家・作家らの哲学的思想を読み込み論文化するという当初の予定を若干変更し、研究対象であるA・ドゥーギンの、今般の戦争に関する発言の分析や、2014年のクリミア半島併合に前後して彼が執筆していた日記を集めた書籍である『ウクライナ:わが戦争』を読み込むなど、ややジャーナリスティックな観点からの情報収集・分析に力を注ぐこととなった。現在上の成果をもとに、2023年度中の学会発表・論文執筆という成果につなげるべく研究活動を継続中である。 そのほか副次的な研究成果として、2022年8月にはロシアの文芸批評家ダニールキンの論考「クラッジ」(『現代ロシア文学入門』所収)を翻訳出版した。これは主にソ連崩壊後、市場経済の発展とナショナリズムの高揚の中で独自の発展を遂げる現代ロシア文学の流れを概括する意欲的な論考である。研究計画に掲げた思想家・作家とはことなるものの、現代ロシア文学における著名な右派の作家らの立ち位置を俯瞰的に把握することも本論考では行われており、本論の訳出は研究計画の進展に大いに寄与したものと考えている。
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