脂質は容易に酸化され、脂質過酸化反応(LPO)が引き起こされる。酸化脂質は、種々の病態の発症・進展に関与することが明らかとなってきているため、その解析が求められている。一方で、生体内で生じる酸化脂質は膨大であり、それらを包括的に解析する手法が不足していた。本研究では、所属研究室にて保有する酸化脂質の修飾パターンと、構造推定法を組み合わせることによって、生体内酸化脂質の構造情報の網羅的獲得を実施した。さらに、推定構造情報を用いた生体内酸化脂質の構造同定法を提案し、それを実際の疾患モデル試料へと応用することで、その有用性について評価した。結果、NASHモデルマウス肝臓中にて生成する酸化リン脂質(oxPL)および酸化トリグリセリド(oxTG)、計132種の構造同定を達成した。同定した酸化脂質分子を標的として、NASHモデルマウス肝臓における酸化脂質形成を評価したところ、肝障害が現れ始める病態早期段階において、oxTGが顕著に増加することを明らかにした。一方で、oxPLsは、炎症や肝線維化が確認されるような病態となって初めて増加することを示した。また、細胞オルガネラの分取およびイメージング評価から、本NASHモデルマウスの肝臓では、脂肪滴においてoxTGが産生すること、さらには、脂肪滴内にてLPOが発生することを明らかにした。加えて、脂肪滴LPOの誘導因子としてミトコンドリアから生じる活性酸素種を同定した。以上、本研究にて確立した酸化脂質解析手法は、疾患発症時における酸化脂質形成の包括的理解を可能とし、これまで明らかとされていなかったLPO進行機序解明を達成している。今後、本解析法を酸化ストレス疾患モデル動物に応用することで、疾患発症の原因分子や、バイオマーカー候補分子となりえる新規酸化脂質の探索、さらには酸化脂質を標的とした新たな医薬品開発が期待される。
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