中性子星合体からの電磁波放射「キロノバ」の性質を定量的に理解するため、原子構造計算に基づいた現実的な重元素の吸収係数を加味した輻射輸送シミュレーションを実施した。特に、中性子星合体後1日以内の初期キロノバ放射に着目し、特に原子構造が複雑でこれまで計算が極めて困難だったランタノイド元素に対して、10階電離イオンまでの原子構造計算を網羅的に行った。その結果、高階電離のランタノイド元素は、f殻とp殻が両方空くことで、低階電離の場合よりもさらに多くの励起エネルギー準位を有することが分かった。この結果をもとに合体後0.1日程度の放出物質における吸収係数を評価したところ、ランタノイド元素に対しては吸収係数のピークが5000 cm2 g-1に達することが明らかとなった。これは、ランタノイド以外の元素と比べると1000倍程度も高く、キロノバの性質に大きく影響を与えるものである。そこで、新しく構築した原子データを用いて、キロノバ放射の輻射輸送シミュレーションを行った。その結果、放出物質にランタノイド元素が含まれる場合は、ランタノイド元素が含まれない場合と比べて4倍程度光度が下がることが分かった。これは高階電離ランタノイドの高い吸収係数を反映するものである。また、将来の観測に向けて、波長ごとの明るさを調べたところ、100 Mpcの距離で中性子星合体が起きた場合、ランタノイド元素を含む場合は紫外線の等級が21-22 mag程度で、ランタノイド元素を含まない場合よりも2-3等級暗くなることが分かった。 この放射は現在稼働中のSwift衛星や、今後の打ち上げが予定されている紫外線衛星で十分観測可能な明るさであり、初期のキロノバ放射を紫外線で検出することで、放出物質における重元素合成に制限をつけられることが明らかとなった。
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