本研究課題の目的は、文脈化単語ベクトルを利用して、大規模なテキストコーパスから述語間・フレーム間の関係を捉えた意味役割付きの高品質なフレーム知識を自動構築することである。本年度の目標は、昨年度開発した動詞の意味フレーム推定手法を、既存のラベル付きのリソースであるFrameNetによる実験を行うのではなく、大規模なテキストコーパスに適用できるか検証し、その上でフレーム知識リソースの一部を構築することであった。しかし、本年度の初めに、その手法を大規模テキストコーパスに適用したところ、期待する性能を示さなかった。そこで、本年度は、更なる性能向上に向けて、引き続き動詞の意味フレーム推定に取り組んだ。
以前開発した意味フレーム手法は、事前学習のみに基づく文脈化単語埋め込みモデルを活用していた。しかし、このようなモデルの汎用的な埋め込み空間は、意味的に類似したフレームの事例が近くに位置しているという人間の直観と必ずしも一致しているわけではないため、事前学習のみに基づく文脈化単語埋め込みを用いる手法の性能には限界があることが確認された。そこで、意味フレーム推定をコーパス内の一部の動詞についてのラベル付きデータの存在を仮定した教師ありタスクとして取り組み、深層距離学習に基づき文脈化単語埋め込みモデルをfine-tuningすることで高精度な意味フレーム推定を実現する手法を考案した。クラスタリングタスクによる実験を通し、深層距離学習を適用することで8ポイント以上スコアが向上することを示した。さらに、教師データが極めて少量である場合でも、提案手法が有効であることを示し、実際にフレーム知識を構築する際にも有用であることが期待される。
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