研究課題/領域番号 |
22K00002
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
檜垣 良成 筑波大学, 人文社会系, 教授 (10289283)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カント / 良心 / 真とみなすこと |
研究実績の概要 |
1. カントが『弁神論におけるあらゆる哲学的試みの失敗に関して』(1791年)および『道徳の形而上学』(1797年)において提示した「誤る良心などというものは不条理物である」というテーゼをめぐって昨年度考察した内容をさらに深めて活字化した。良心が裁くのは、道徳的判断そのものではないので、その判断が誤っていても、良心が誤ったわけではない。良心は、裁くというよりもむしろ、自己に「慎重さを適用したと意識しているかどうか」の公言を要求ないし要請しているだけなのである。道徳的判断をなす理性は誤りうる。したがって、「みずからの知性を義務であるものないものに関して啓蒙すること」は必要である。しかし、すべてのケースにおいて「知性」が誤りのない道徳的判断を下すこと自体を人間に要求することはできない。したがって、正しく行為するために最も重視されることは、道徳的判断が実際に誤っていないということではなく、正しいと信じていること、正しく行為したという確信である。
2. 『実践理性の批判』(1788年)の定理IIにおいてカントは、「あらゆる質料的な実践的原理は、そのようなものとして、残らず同一の種のものであり、自己愛もしくは自身の幸福の一般的原理のもとに属する」と言う。なぜ質料的な実践的原理は例外なくそのようになってしまうのか。この理由を突き詰めることを通して、いかなる行為も、行為そのものを絶対視するような実践的法則の内容たりえないことを確認した上で、それにもかかわらず、『道徳の形而上学』(1797年)において質料的命題の体系が展開されているように見えるのはなぜか。また、『人間愛から嘘をつく権利という思い誤られた権利に関して』(1797年)において真実性の義務が、「無制約的義務」として論じられていることをどのように理解するべきかを明らかにして、日本カント協会第48回学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
体調の問題から若干、研究の進展は緩やかであった。 それでも、カントの「良心」概念について狭義の「知性」や「実践理性」との区別と連関を明らかにすることを通して、また、カントの質料的な実践的原理の批判の真意を浮き彫りにすることを通して、「真とみなすこと」についての思想がカント哲学において根幹をなしている一面を判明にすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、「誤る良心などというものは不条理物である」というテーゼについての理解を突き詰めた上で、カントの質料的な実践的原理の批判の意義へと考察を進めたが、今後、この考察によって明らかになった各論点をさらに精査する。このことによって、カントが「真とみなすこと」という視点を重視した意味がいっそう明らかになるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
体調不良を踏まえて、研究を急ぐことなく、じっくり取り組むことにしたため、次年度使用が生じた。体調は快方に向かっているので、本来の研究を完遂するべく、カントおよびドイツ啓蒙主義哲学に関する研究を進めるための資料収集の費用として使用する。
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