研究課題/領域番号 |
22K00021
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
田中 美紀子 神戸女子大学, 文学部, 教授 (80759613)
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研究分担者 |
内田 浩明 大阪工業大学, 工学部, 教授 (90440932)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カント / オプス・ポストゥムム / 自然神学 / 自然科学 / 義務 / 人格 |
研究実績の概要 |
本研究はカントの晩年の思考の膨大な覚書である、彼の遺稿群(オプス・ポストゥムム)の翻訳を目指すものであるが、令和5年度は昨年に引き続き、最晩年に書き留められた第一束(ドイツ語のアカデミー版カント全集第21巻)の翻訳を進めた。本研究のメンバーは、それぞれ担当する箇所を決めてドイツ語原書の試訳を完成し、研究会前に相互に試訳を送りあい、チェックを入れて、研究会に臨んだ。研究会では試訳の報告発表を行い、相互に批判・推敲を行いながら討議を繰り返し、日本語訳の精度を上げた。令和5年度にはオンラインで研究会を3回開催した。 第一束の草稿群の最初の部分は、80歳近いカントの健康状態が思わしくない頃に書かれたので、意味不明な箇所が多々あったが、既刊の英・仏・西・伊語の抄訳を参照にしながら、我々はわかりやすく訳出することを心掛け、本文の理解に必要な訳注と翻訳者による解説を付け加えて、その成果を学術機関リポジトリで公開した。 カントは最後の力を振り絞って、己の哲学体系を完成させ、著書にまとめようとあえいでいたのであるが、その著書の下書きに当たると思われる覚書から、カントの壮大な計画を垣間見ることができた。すなわち、彼の超越論的哲学の最終的到達点は、「主体が世界と神概念を結合する」という主観的観念論であり、そこでは神は義務を持たない「人格」としてとらえられ、神の命令としての義務に従う人間もまた、世界存在者としての「人格」そのものとして位置付けられている。このように晩年のカントの思想において人間は、神と世界を結びつける繋辞として存在意義を与えられているのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症およびインフルエンザの流行のため、対面での研究会を開催することは見送り、オンラインで研究会を開催した。研究会開催前に、研究グループの中でそれぞれ試訳を完成し、それを相手に送信して、あらかじめチェックしてもらった。オンラインでの研究会では、難解な個所について議論しながら試訳の推敲を行った。その際、既存の英語訳、フランス語抄訳、スペイン語抄訳、イタリア語抄訳を比較参照しながらドイツ語原文を和訳することができた。 そして、研究代表者の所属大学の令和5年度の文学部紀要に、完成した翻訳文を掲載した。その紀要は学術機関リポジトリに登録され、オンラインで公開された。翻訳文には翻訳者による注釈と解説と付け加えて、読者の理解を助けた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、研究グループでカント遺稿集の日本語訳を進めていく。令和6年はカント生誕300年の記念の年にあたるので、日本国内外で大規模な学会が開催される。それらの学会に積極的に参加し、新たな知見を得て、本研究に生かしたい。 令和6年度も研究会を開催し、研究代表者の所属する大学の令和6年度刊行の紀要に翻訳と解説を掲載する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症がいまだ完全に収束していないので、今年度の研究グループによる研究会は、オンラインで開催された。そのため、旅費の未使用額が生じた。次年度は、学会に参加を予定しており、旅費・学会参加費等で使用する。
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