研究課題/領域番号 |
22K00030
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
西村 正秀 滋賀大学, 経済学系, 教授 (20452229)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 断片化された信念体系 / 合理性 / 認知地図理論 / 認識的非難 |
研究実績の概要 |
R4年度は、1年目に予定していた認知地図理論における不整合な信念体系の問題を検討した。認知地図理論は多くの事柄が地図的内容として一挙に表象されるという点で全体論的性格を有するが、その性格ゆえに不整合な信念体系が許容されないという懸念が指摘されてきた。この懸念を解消する有力な手段に、主体の信念体系を断片化された複数の信念区画から構成されたものと見なす「信念の断片化理論」がある。この理論を認知地図理論に適用すれば、信念体系は複数の地図からなる地図帳として理解される。S. Yalcinによれば、各区画内の信念集合は整合的である必要があるが、区画間の整合性は要求されない。だが、この考え方には、自己欺瞞や妄想などの通常非合理的とされる信念体系も合理的なものとされる恐れがある。この問題を解決するために、C. Borgoniは区画間の合理性の基準として「証拠への応答性」を導入した。これは、現在活性化していない区画に属する信念でも、活性化している区画と関連するものならば証拠として使われねばならないという基準である。 本研究では、Borgoniのアイデアを踏襲した上で、その補強・拡張を試みた。Borgoniは証拠として使用されるのは別区画に保存されている信念だと主張するが、この主張は、無関心や怠慢によって本来持つべき信念を主体がそもそも持っていないという事例を扱えないと考えられる。本研究ではこの問題の解決を、どのような証拠が要求されるのかを決定するメカニズムの分析を通じて試みた。証拠は文脈に応じて外在的に決定される。この決定メカニズムを、認識的非難の源泉を共同体からの社会的要請に求めるC. Boultの理論などを用いて描くことで、上記の事例を包摂しうる合理性基準を検討した。R5年度は、このメカニズムの変動性や射程をより詳細に検討した上で、上記の研究成果を学会発表と論文の形で公表したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
R4年度は、勤務先の大学で担当していた委員の業務などに多くのエフォートを割かねばならなかったから。
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今後の研究の推進方策 |
R4年度は、1年目に計画していた(1)認知地図理論における不整合な信念体系の問題の検討と(2)信念内容の多元主義の検討のうち、特に(2)に大幅な遅れが生じた。R5年度は、遅れの原因の一つであった大学の業務負担が減るので、研究課題の推進により多くのエフォートをつぎ込める。具体的な推進方策としては、まず(1)を完成させて国内での学会発表を試み、その後に(2)と2年目に計画していた「認知地図理論における概念のあり方の検討」を行う。(2)と2年目に計画していた認知地図理論における概念のあり方の検討は関連している側面がある(認知地図理論は、信念内容を心的言語として捉える理論で措定されがちなフレーゲ的意義としての概念とは相性が悪いので、概念をどのように理解するかは多元主義の是非を検討する際の一つの鍵となる)。したがって、(2)と2年目の課題を可能な範囲で並行して行なって行きたい。また、それと並行しながら(1)の成果を論文化する。 また、R4年度は計画していたイリノイ大学シカゴ校のD. Hilbert教授との研究打ち合わせを実施できなかったので、R5年度は(2)と2年目の課題に関してそれを実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
R4年度は計画していたイリノイ大学のD. Hilbert教授との研究打ち合わせを実施できなかったので、そのための国外旅費が未使用額として残ったから。 R5年度は上記研究打ち合わせを実行し、その旅費を使用する予定である。
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