研究課題/領域番号 |
22K00035
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松田 毅 岡山大学, 社会文化科学研究科, 客員研究員 (70222304)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ライプニッツ / 医学 / 生物 / 化学 / 医機械論 / ボイル / 九鬼周造 / 医学哲学 |
研究実績の概要 |
ライプニッツの医学哲学が、伝統の体液説から距離を取り始めたばかりの17世紀の錯綜した医学の諸パラダイムの争いのなかで、どのような位置を占めるかを探索し、確定するために、その化学論と医化学に関する基礎的考察を行った。論文「ライプニッツの物質論――化学を焦点に考える」では、この間行った、ゲアハルト版ライプニッツ著作集に所載された、未邦訳の化学関連の遺稿の邦訳作業に基づき、ライプニッツの化学(論)が、どのように初期から晩年に至るまで推移したかを概観した。その結果、一定数の「元素」の存在仮定を批判する、ボイルの「懐疑的化学」の態度にライプニッツが一貫して賛成し、機械論の自然哲学を保持する一方、化学や動物の諸現象の説明のために、ファン・ヘルモントらの医化学的見方にも理解を示す柔軟な立場だったこと、身体と器官固有の凝集性を説明するために、粒子の運動(「調和回転」)に還元できない、現代化学の「化合」に近い物質の結合概念に至る鳥羽口にいたことを確認した。 また、研究代表者による、ライプニッツの様相形而上学に関する研究を発展させて、第11回国際ライプニッツ学会で二つの報告を行った。一つは、ライプニッツの自然神学と後期スコラ哲学に関わり、Luis de Molinaの「中間知」の理論とライプニッツの弁神論の様相論を「二重化された様相論」として解明するものである。もう一つは、偶然の存在と認識に関して、近世哲学史にも造詣の深かった、九鬼周造の『偶然性の問題』の様相形而上学とライプニッツのそれとを比較考察し、それぞれの特徴を浮き彫りにするものである。九鬼については、偶然性の考察に含まれる特に形式論理的位相を、逆に、ライプニッツについては偶然に関する「直観的」位相を際だてることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は落ち着いて研究できる生活環境と心理状態になり、当初の予定の計画がほぼ実行できた。今後は、論文「ライプニッツの物質論――化学を焦点に考える」の成果をライプニッツの医学哲学に関する研究の歴史的アプローチの面の足場にしたい。その内容は、ライプニッツ協会第9回春季大会でのシュトルク博士(ライプニッツ全集の医学関連の遺稿編纂者)の講演“Towards a Medical Paradigm and its development”の内容とその際の打ち合わせでの議論を通じ、確認した内容とおおむね一致すると判断している。その討議により、ライプニッツの遺稿の状況やその公刊の見通しなどもより具体的に知ることができたので、今後は、あわせて現代の医学哲学からのアプローチの部分にもより踏み込んで研究したい。
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今後の研究の推進方策 |
前項目で記したような進捗状況なので、今後は、さらにライプニッツ自身の医学哲学的遺稿を調査し、その代表的なものの邦訳を試みると同時に、歴史的文脈の解明にとどまらず、たとえば、病気と健康の概念、医療行為の位置づけなどについても、現代の「医学哲学」の展開から学びながら、ライプニッツの医学哲学の現代的解釈に活かせるようにしたい。また、それらの考察の前提となる「アフェクトゥス」の概念についても、狭義の医学関連の文献の範囲にとどまらず、より広範囲のテクストを視野に、特に存在論的な考察の対象としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の夏期の国際学会に参加のための航空運賃高騰の影響を受け、他の出張や招聘は難しい状況になったが、少し残額が出たので、資料の収集に宛てたい。
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備考 |
2024年1月18日に「ライプニッツ(1646-1716)哲学の文脈:『モナドロジー』と『弁神論』を焦点に」と題して岡山大学文学部で招待講演を行った。また、日本ライプニッツ協会の第9回春季大会(金沢市、2024年3月9/10日開催)に、ベルリンアカデミーのシュトルク博士を招聘し、ライプニッツの医学哲学に関する講演会を組織して、司会を担当した。その報告は翻訳する予定。
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