研究課題/領域番号 |
22K00056
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
船山 徹 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70209154)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 義浄訳 / 漢訳 / 翻訳可能性 / 翻訳不可能性 / 訳語の一貫性 / 漢字音写語 |
研究実績の概要 |
昨年度までに義浄訳論書のうち,以下の文献を対象として研究を遂行した。 (1) 義浄訳『観総相論頌』の英訳作成と内容分析を行った英語論文を作成した。そこには研究史の整理・『観総相論頌』の全訳と語注・義浄訳に特有な訳語(漢訳)の非一貫性と不明瞭性に関する具体的考察を含む。スタンフォード大学ポール・ハリソン教授頌寿記念論文集の一論文として出版することが決定しており,現在はその校正段階である。 (2) 義浄訳『因明正理門論』・同訳『成唯識宝生論』・同訳『手杖論』・同訳『観所縁論釈』の義浄訳4種に現れる音訳(サンスクリット語の漢字音写)と漢訳語それぞれについて,不統一性と非首尾一貫性を検討する資料ファイルを作成した。そのため2024年1月にマレーシアのクアラルンプールにて釈ヨウミン Ven. Shi Youmin 氏と密度の高い研究討論を遂行した。 (3) 仏典漢訳における翻訳可能性・不可能性と漢字音写語表記の限界を概説する公開講演会を昨年度内に2回,東京と京都で主題を変えながら行った。 (4) 義浄訳論書の訳語の特徴を具体的に知るため,陳の真諦訳『顕識論』一巻を本格的に取り上げ,その原典諸本の校訂と現代語訳および語注の作成を行った。これによって義浄の訳語と真諦の訳語を対比し,それぞれの特徴を示すことができる。2024年度内の最終的出版にむけてその原稿の大半を作成終了し,現在,総合的に再検討している段階である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
義浄訳諸論書における語彙と語法の不明瞭と不統一に研究の焦点を絞った研究であるため,遂行すべき具体的作業内容が明瞭となったことが大きな理由である。より具体的には義浄訳における訳語選択の不統一性と非一貫性(矛盾する訳語の存在)を具体的網羅的に洗い出した資料集の作成を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後,次の二点を中心に研究を進める。 第一は,義浄訳における意味不明にして中国人読者にとって全く意味不明の音訳が存在することをどのように理解・解釈すべきかについて可能な仮説を複数提示し,それぞれの仮説の適否を冷静に判断する。 第二は,義浄による訳語との共通性と相違性を具体的に示す原典資料として真諦『顕識論』の原文校訂版・現代日本語訳・詳細に語注を2024年度内に出版するため,最終原稿を作る。 第三に,本研究代表者と同じ問題意識を共有する同僚としてエリック・グリーン氏(合衆国イェル大学准教授)を7-10日程度招待し,研究報告会及び関連諸事項についての討論会を設定する。そして最終的に,義浄訳に潜む訳語の特性と問題点──特に甚だしい訳語不統一性の欠如と,意味不明な音訳が数多く見られる事実と──を,我々現代人はどのように解釈するのが最も適切であるかを,義浄晩年の漢訳活動とその終末状況も考慮しながら研究する。 主にこの三点の活動を実施し,最終2025年度に本課題研究を総括する状況を整える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は2つある。1つは,コロナウィルスは比較的鎮静化したとはいえ,7日から10日のあいだ滞在して研究報告ならびに討論会を行うには時期尚早であると判断したため,海外出張旅費額が最初の計画よりも少額となったことである。もう1つは,義浄訳を実際に使って研究修学活動を行っている指導大学院生が一人いて,その人物に研究旅費を支払って、義浄訳とその他の訳を比較する一覧表と,その根拠となる一次資料の電子入力を依頼する計画であったが,その大学院生がカナダのマクマスター大学に一年間留学したため,彼に業務を委嘱することができなくなり,人件費・謝金に余剰が生まれたことである。 以上の2つを補填する今年度の使用計画を次に示す。外国出張旅費については、今年はウィルス蔓延状況がかなり緩和されてきたため,二度の海外出張に充当する。私が海外に赴く研究旅費(ハイデルベルク大学または国立台湾大学の教員との共同研究)と海外から合衆国イェル大学のエリック・グリーン准教授を招き,一週間の京都滞在中に共同研究と公開講演会を設ける。この2つで研究を補填することにより,昨年度に不十分だったところを回復することができる。
|