研究課題/領域番号 |
22K00062
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研究機関 | 身延山大学 |
研究代表者 |
槇殿 伴子 身延山大学, 国際日蓮学研究所, 研究員 (40720751)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | マニ・カンブン / カチェンカクルマ / 観自在菩薩 / ソンツェンガンポ王 / 宝性論瞑想学派 / 他空 / 自心仏 / 悲を蔵する空性 |
研究実績の概要 |
令和4年度の研究業績は、学会での口頭発表が5件、論文発表が5件、インドでのフィールドワークが1件である。口頭発表は、2件の国際学会と3件の国内学会である。第16回国際チベット学会(プラハ・チャールズ大学)と第19回国際仏教学会(ソウル・ソウル大学)、日本印度学仏教学会第73回学術大会、日本宗教学会第81回学術大会、パーリ学仏教文化学会第35回学術大会である。これらの口頭発表に基づき、研究論文を、「『カチェンカクルマ』と『マニ・カンブン』-如来蔵思想の系譜」(『印度学佛教学研究』第71巻2号)、「『マニ・カンブン』における「六字真言成就儀軌王統流大注釈」」(『宗教研究別冊』96巻)、「『マニ・カンブン』におけるソンツェンガンポ王のジャータカ-過去仏時代における王権と仏法の関係の変遷」(『パーリ学仏教文化学』36号)として刊行した。国際学会での発表は英文での論文発表を準備中である。学会での口頭・論文発表とは別に、『マニ・カンブン』における観自在菩薩の実践指南(dmar khrid)についての研究論文を2本発表した。「『マニ・カンブン』における葬儀法」(『身延山大学紀要』)と「『マニ・カンブン』における「ナーローの六法」」(『日蓮学』4号)である。フィールドワークの成果は、『日蓮学の現代』(浜島典彦編著)に「シトゥ・パンチェン・チュキジュンネ」著『問答宝鏡』とケンポ・カルマ・ゲンドゥンの解説」として論文発表した(2023年5月16日刊行)。これらの研究発表で、心と空性と如来蔵の関係からチベット仏教思想史と東アジア仏教思想の再構築を行うことを展望とし、『宝性論』瞑想学派の系譜と観自在菩薩の瞑想実践の伝承系譜が重なることを指摘した。アティシャとカダム宗ラディン寺派から、カギュ宗ニンマ宗、中国天台、中国禅、中観他空の系譜、日本の東密、台密に至る伝承の系譜の解明に文献的資料を供給した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
口頭発表5件と論文発表6本の計10件の研究成果をあげた。2件の国際学会での発表の後、海外からの評価(インドの出版社からの出版依頼)を受け、今後の出版を期待されていることから、学会での英文での発表に大きな成果があげられたことは予想以上の進展であった。学会発表時は、『カチェンカクルマ』の現存する3つの版のうち、2版のみで発表したが、年度末に残りの1版を入手できたことにより、今後の研究をさらに進展させることが期待できる。本研究者はチベット仏教を専門とするが、2018年度に続き、パーリ学仏教文化学会で、継続的な研究成果の発表の機会を得て、論文が学術誌から出版されたことにより、本研究者の研究がチベット仏教以外の仏教にも貢献することができたのではないかと考える。本研究者は東アジア仏教思想史における如来蔵思想史の再構築を行うことを目指しているため、幅広い学術分野の識者の方々に研究成果が発表できることは、その礎となっていくことだと考える。論文の一つは、共著の図書の1本を含む。図書については、今年度の発表を予想していなかったため、専門家以外にも幅広い分野の識者や読者に研究成果が公表される機会に恵まれたことは大きな成果である。令和4年度の夏から、東京大学の特任研究員となり、科研費の研究成果を社会貢献のために活かせる道が開かれたことは大きな進展である。研究者個人の研究が、他者の幸せのために役立たせることができるようになることは大きな喜びであり、予想外の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
『カチェンカクルマ』の現存する3つの版のうち、年度末に入手した草書の1版を楷書に書き換える作業が今後の研究をさらに進展させる土台となっていく。来年度に予定するインドでのフィールドワークにおいて、楷書に書き換える作業を進めていく。『マニ・カンブン』については、観自在菩薩の主要な成就法については令和4年度に論文発表を完成しているため、今後は、成就法の注釈部分(『宗教研究別冊』第96巻に概略)についての詳細な翻訳作業を進めていく。それらの成果を国内の学会と、身延山大学からの刊行物において発表していく予定である。来年度も東京大学特任研究員の役割を継続して行う。
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