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2022 年度 実施状況報告書

空海の遺志を継ぐ学僧たち:近世後期の「根本説一切有部律」宣揚運動

研究課題

研究課題/領域番号 22K00065
研究機関京都薬科大学

研究代表者

岸野 良治  京都薬科大学, 薬学部, 講師 (40760137)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2027-03-31
キーワード有部律 / 根本説一切有部律 / 密門 / 有部律異形問答
研究実績の概要

本課題の骨子は、江戸期の「根本説一切有部律」宣揚運動に関わった学如(1716-73)や密門(1707-88)といった真言学僧たちの著作・編纂物の実見調査である。2022年度は、以下の図書館・寺院において調査を行った(順不同):高野山大学図書館、東京大学総合図書館、東京大学東洋文化研究所図書室、正通寺(岡山県瀬戸内市)、地蔵寺(徳島県板野郡)、松尾寺(京都府舞鶴市)、龍象寺(奈良市)、福王寺(広島市)。これらの図書館・寺院を訪れ、資料の有無を確認し、確認されたものに関しては、その資料の閲覧および電子データ化をおこなった。またそれらの解読を進めた。

これらの調査の中で、もっとも大きな成果が得られたのが地蔵寺における調査である。同寺からは、これまで先行研究においてそのタイトルのみが知られるばかりで、全く行方が確認できなかった密門の『有部律異形問答』が発見された(しかも二部)。今後、同テキストの解読により本研究課題が大いに進展することが予想される。

また調査した諸資料を解読することで、学如や密門らの「部派」に関する特徴的な見解が明らかになった。彼らは、漢字文化圏で最も一般的な『四分律』と、それまで殆ど顧慮されてこなかった「根本説一切有部律」を明確に区別する一方で、インドにおいて『四分律』を伝持していた法蔵部という部派と「根本説一切有部」を伝持していた説一切有部という部派との、教義や所属の違いを論じることはない。むしろ、彼らはそうした部派の一つ一つをブッダの教えという「金杖」を形成する「一枝」として捉え、違いを問題視していないようなのである。この見解は、特定の律の伝持が、その部派への全面的な帰属を意味するという現代の仏教学界で一般的な見解とは大きく異なる。彼らの見解は「部派」をいかに理解するかというシンプルかつ重要なテーマを考察する上で示唆に富むと言える。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

昨年度は、一昨年度に引き続き、深刻なコロナ禍が拡大していたこともあり、交通公共機関での移動や宿泊を要する本研究課題の遂行を、思うように調査を進めることはできなかった。しかしながら、密門の『有部律異形問答』をはじめとする重要な文献資料を発見することができ、また調査旅行ができない間は、既に入手した文献資料の解読を進めることができた。結果、江戸期の「根本説一切有部律」宣揚運動に関わった学僧たちが、戒律や部派をどのようなものとして捉えていたのかという重要な論点を明らかにし始めることができた。以上のことを踏まえると、当初の計画通りとまでは言えないものの、おおむね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

今後の資料調査における方策のなかで、特に重要なものは以下の2点である:
(1)これまでの調査において、もっとも大きな成果が得られたのが地蔵寺(徳島県板野郡)であることは既に述べた通りである。関係者の方々より伝え聞くところによると、四国には、地蔵寺のように近世の仏典を数多く所蔵する寺院は他にも有るとのこと、それは近世中期より「お遍路」が流行したことと無縁ではないとのことであった。このことに鑑みて、今後は、四国に所在する寺院を重点的に調査する。
(2)この度の調査においては、冊子状の写本に関しては、その表題として表紙に書かれているタイトルと実際の中身が異なるものが散見された。それはタイトルの書き間違いという意味ではない。そうではなく、実際に冊子の中身を検分すると、表題として表紙に書かれたタイトルを内容とするテキストに加えて、別の内容を持つテキストもそこに含まれているということがしばしば確認されたのである。例えば、先に述べた『有部律異形問
答』は、地蔵寺において単独で存在するだけでなく『有部新旧両訳出没義』という表題のついた写本冊子の中にも含まれていた(つまり地蔵寺には『有部律異形問答』が2部所蔵されていた)。またその『有部新旧両訳出没義』には、福王寺において『律蔵目録』というタイトルで単独で伝わるテキストも含まれていた。同様に、正通寺において『有部律摂附言引拠』というタイトルのもと単独で伝わるテキストが、高野山大学所蔵の
『通受比丘懺法不同記黒白鈔』というタイトルの写本冊子の中に含まれていることが確認された。これらのことに鑑みて、今後の調査においては、表題を鵜呑みにするのでなく、内容を精査して表題と内容が対応していることを確かめること、さらには、これまで見当たらなかった写本資料も、別の表題の写本冊子の中に含まれた形で伝わっている可能性があることを考慮して調査を進める。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍ゆえに、交通公共機関での移動や宿泊を伴う調査旅行が思うように実施できなかったため、当初予定していた調査を延期せざるをえなかった。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)

  • [雑誌論文] A Translation of the Story of an Angry Monk Who Became a Poisonous Snake in the Muktaka of the Mulasarvastivada-vinaya: Part Two, Partial Parallels to the Avadana-sataka2022

    • 著者名/発表者名
      Kishion Ryohji
    • 雑誌名

      佛教學セミナー

      巻: 115 ページ: 1-33

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Japanese Mulasarvastivada-vinaya Tradition in the Late Edo 江戸 Period: Shingon 真言 Monks' Views about the Authenticity of the Mulasarvastivada-vinaya2022

    • 著者名/発表者名
      Kishino Ryohji
    • 学会等名
      XIXth Congress of the International Association of Buddhist Studies
    • 国際学会
  • [学会発表] 金亀山福王寺が所蔵する『小部類集』に含まれている「律蔵目録」について:近世 後期の「根本説一切有部律」理解2022

    • 著者名/発表者名
      岸野良治
    • 学会等名
      日本印度学佛教学会第 73 回学術大会
  • [学会発表] チャンダカ・ビクシャナ(Skt. chandaka-bhiksana)をめぐる一考察2022

    • 著者名/発表者名
      岸野良治
    • 学会等名
      日本印度学佛教学会第 73 回学術大会:パネルA「戒律から見えるインド仏教とジャイナ教の諸相」
  • [学会発表] The Narrative Story about the One Who Became a Poisonous Snake preserved in the Mulasarvastivada-vinaya and the Avadana-sataka2022

    • 著者名/発表者名
      Kishino Ryoji
    • 学会等名
      International Conference, Thus Have I Heard: Patterns and Logics in Buddhist Narrative Literature
    • 国際学会

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公開日: 2023-12-25  

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