研究課題/領域番号 |
22K00084
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
一色 哲 帝京科学大学, 医療科学部, 教授 (70299056)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 社会的周縁と地域的周縁 / 南島キリスト教史 / 奥羽越列藩同盟とキリスト教 / 地域キリスト教史 / 警醒社篇『信仰三十年基督者列伝』 / 周縁的キリスト者の信仰 |
研究実績の概要 |
本研究の研究初年度にあたって、東北と北海道、新潟地域については、まず、二次文献(先行研究)の整理と、一次文献の収集の目途を立ててこれからの研究方針を決定していくことにした。また、沖縄を含む南島地域については、戦後、米軍占領下の沖縄キリスト教史に関する研究を公刊するために、原稿の執筆と、これまで収集した一次・二次史料の点検を行った。 先行研究については、まず、CiNii Reserch等で検索し、相当数をPDFファイルでダウンロードした。その他、公立の図書館等の「郷土資料室」等で情報の収集を行った。そのため、研究費の支出が旅費に偏ることになった。そして、そこで得られた知見は以下の通りである。 本研究の主たる特徴は以下の2点である。第一に、近代日本における地域的周縁と社会的周縁におけるキリスト教受容層の分析とその入信動機を明らかにすること。第二に、これまでの日本キリスト教史研究においては教派・教団中央の動向と行政の管轄(都道府県)ごとに区切られた分析が主流であったが、本研究ではキリスト教の伝道・布教の実際を行政の枠組を越えて考察すること。 それらについての本年度の成果は以下の通りである。まず、社会的周縁については以下の特徴的な女性信徒の存在を確認した。それは、会津出身の新島八重と井深八重、岩手県花巻出身の山室機恵子、青森県八戸出身の羽仁もと子等である。また、地域的周縁のキリスト教受容の例として、奥羽越列藩同盟に所属した地域である新潟県長岡、山形県庄内(鶴岡)、福島県会津若松、青森県弘前・八戸、宮城県仙台などを取り上げて、これらの地域でのキリスト教受容の分析をすることで新しい知見が得られるのではないかという感触を得た。 最後に、当該地域の行政区画を跨いだキリスト教受容の例として宮城県から岩手県にかけて北上川を遡上するように伝道域を広めたハリストス正教会の存在にこれから注目したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究がやや遅れている原因はいくつかあるが、最も大きいのは調査地域が広範囲であることだ。また、一次史料については都道府県や市町村など行政単位で保存されているため、それぞれ分割され、分断されている史料を収集し、統合していくのは、かなり時間のかかる作業である。研究者や地域史家の歴史認識も同様である。そのため、先行研究となる二次文献についても収集しそれらの情報を統合していくのに予想以上に時間を要している。この点については、地道に作業を積み重ねていく他はないが、独自のデータベースを構築するなどして、分散した史料や情報の統合について工夫をしたと考えている。 また、社会的周縁としての市井に生きる庶民や知識人のキリスト教受容については、1921年に刊行された警醒社篇『信仰三十年基督者列伝』(警醒社、以下、『基督者列伝』)に掲載されている850名余りのキリスト者について分析を行い、本研究の該当地域のキリスト者の全体像について、考察を深めていきたいと思っている。なお、『基督者列伝』については現在データベース化の途中であるが、完成すれば、学会等で発表の予定である。 その他、日本の地理的周縁でもあり、社会的周縁でもある南島地域のキリスト教史については、研究の総括とまとめが順調に進んでいる。そのため、2023年度中にはその成果を公刊する予定で、現在、原稿を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、前項で言及した、『基督者列伝』について、そこに掲載されている約850名のキリスト者について出身地、及び、居住地・身分(信徒・伝道者等)・族籍・職業等について分析を行う。その上で、日本の各地域や族籍・職業でのキリスト者の特性について調査を行う。また、それぞれの入信動機についてわかる範囲で整理し、特徴的なキリスト者を幾人か抽出し、それぞれの来歴や信仰について調査をしていきたい。 また、社会的周縁について、ある程度調査の目途が立っている東北・新潟出身で、明治期の女性キリスト者について調査を進める。その際に、入信動機や当該人物の周辺の環境・関係者についても同時に理解できるように文献や聞き取りの調査を目的としたフィールド・ワークを行うことにする。また、社会事業家や教育者の場合、それらの対象になった者(支援や教育の対象者等)に着目して、それらの研究を総合的に行う。 次に、「研究実績の概要」でも述べた北上川を遡上するハリストス正教会(ロシア正教会)や秋田を中心として広がっていったディサイプルス派の基督教会(キリストの教会)などについても、地域越境的教派の研究として着手したいと考えている。また、ハリストス正教会の場合、北上川沿岸地域にかかわらず、八戸やその他明治期の東北に広範に広がり、村落単位で改宗が行われていたとわれている。これらは、社会的周縁へのキリスト教の伝播の点で興味深いので、地域紙やハリストス正教会の機関誌などの調査を行いたい。 最後に、南島地域のキリスト教史についてなるべく早く総括を行う。その上で、地域的周縁としても、社会的周縁としても共通している、戦前期の東北・新潟・北海道のキリスト教受容について比較検討に着手をしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が9,580円になった件に関して、勤務校の年度会計の終了後に図書館を通して文献の複写の依頼をしており、現在の数字については、それが計上されていない。その他の余剰部分については、次年度の物品購入分に当てるなど、適切に使用したいと考えている。
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