本研究の目的は、プラトン『国家』中心巻において示される「対話による超越的なるものへの接近」というプラトンの方法論の内実と有効性を明らかにすることである。 計画の初年度として、『国家』中心巻の「太陽の比ゆ」「線分の比ゆ」「洞窟の比ゆ」という三つの比ゆの分析を進めた。三つの比ゆにはそれぞれ特長と歪みが指摘されているが、分析にあたっては個別の比ゆに焦点を当てるだけではなく、三つの比ゆの連絡と重ね合わせに注意を払った。これらの比ゆの重ね合わせの局面に登場するのが、本研究の核であるところの、ディアレクティケー(「問答法」あるいは「対話法」)による善のイデアへの上昇というプログラムだからである。これら三つの比ゆの分析を進めていくなかで、『国家』第六巻で指摘されている「ソクラテスの対話(ディアロゴス)」に対する批判(487b1-c4)-プラトン自身の診断とも見なし得る批判-についての検討を行うことが、ディアレクティケーというプログラムを考察するための基盤を提供すると予想された。そこで、三つの比ゆの分析と並行して、プラトンの描く「ソクラテスの対話」の検討を行った。具体的には、プラトンが描く「対話」を4つの特徴から分析し、プラトンは「ソクラテスの対話」の限界と失敗を十分に把握しており、むしろそうした限界と危険性を自覚したうえで対話的な探究を試みているということを明らかにした(研究発表「対話(ダイアローグ)の限界と可能性ープラトンが描くソクラテスの対話からー」(静岡哲学会、2022年11月3日)。この知見は、ディアレクティケーが幾何学的な探究をモデルとしているだけではなく、そこには対話的な探究法をめぐる方法論的な深化があったことを示唆している。次年度においては、こうした方法論的な観点から、さらに三つの比ゆの分析を進めていきたい。
|