研究課題/領域番号 |
22K00104
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
柴田 崇 北海学園大学, 人文学部, 教授 (10454183)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | サイボーグ / サイケデリック / ノウアスフィア / 叡智圏 / ロシア宇宙論 / メタバース / H・アーレント |
研究実績の概要 |
本研究は、「与えられたものを拒否し、人工的な物に置き換える」という発想が、宇宙進出の地球疎外の側面と、サイボーグ技術の身体疎外の側面とに通底することを出発点とする。その上で、この発想が1957年のアメリカで一般化していることを指摘したH・アーレントの著書を手がかりに、二つの疎外を同時に生み出した思想環境=ビオトープの再現と解明を目指すものである。 本年度の実績としては、第一に、アーレントが『人間の条件』(1958年)において展開している議論、すなわち、電子計算機が科学的言語の理解を代替する未来、機械との分業で生じた余裕(「余暇」)の使途など、現代のAI論に通じる議論を紹介しつつ、それらの今日的意義を検証した以下の研究をあげることができる。「AI対IA――対立の図式に隠された真の主題」『人工知能とどうつきあうか――哲学から考える』勁草書房(2023年7月刊行予定)、“Reflections on mobility toward space.: Taking H. Arendt's 'alienation' as a clue” The Society for Philosophy and Technology 2023(2023年6月発表予定) 第二に、1960年代以降のカウンターカルチャーの中に、宇宙進出を希求するメンタリティが浸潤し、外的宇宙に対する内的宇宙への進出が積極的に語られたこと、そして21世紀のアメリカを震源地にして、富裕層を対象にした宇宙旅行と並行するかのように仮想の宇宙への没入を謳うメタバースが喧伝されていることを明らかにした以下の論考をあげられる。・「メタバース」『新人文学』第19号、108-141.、・「メタバースと現実世界の関係性――現在地と方向性」『新人文学』第19号、142-165.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、ビオトープの形成過程の詳細な考察に対し、ビオトープの特徴の一端とその現われの考察を優先して進めた。結果、1960年代のサブカルチャーで勃興した内的宇宙への進出の気運であるサイケデリックが、現代のメタバースの思想的淵源となっていることが明らかになった。 2023年度は、ビオトープの形成過程の追跡と再現に軸足を戻し、P=テイヤール・ド・シャルダン、およびロシア宇宙論に関連するいわゆるハイカルチャーの領域での宇宙進出と人間改造を中心に文献の収集と精読を進める。
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今後の研究の推進方策 |
ビオトープを再現する際、以下の二つの観点に留意する。 一つ目は、外的環境を認識する際の特徴である。宇宙進出が、征服を待つ未開の地に進出する「フロンティアスピリッツ」に駆動されたことを指摘する論考は少なくないが、外的宇宙への進出がそれとパラレルな内的宇宙の観念を伴っている点、および両宇宙の関連性については十分に考察されているとは言えない。 二つ目は、宇宙の開拓が単に未開地の探索に留まらず、両宇宙での未知の経験を通じた覚醒により、人間精神の進化が語られていることである。 加えて、三つ目は、進化を遂げた人類が新しい生息圏を構築する、とのヴィジョンである。このヴィジョンは、地球からの離脱を希求する点で、例えばプラトンの洞窟の比喩に見られるような、異世界での体験や覚醒の後の帰還を前提とする議論と好対照を為し、ビオトープの特異性を説明する特徴となっている。 以上の三点に留意しながら、2023年度は、P=テイヤール・ド・シャルダン、およびロシア宇宙論の文献を精読することに注力する。併せて、これらに関連するサブカルチャー領域の文献の収集と整理を進め、2024年度以降の精読を準備する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だった書籍が品切れ、絶版などで年度内に入手できなかったことによる。該当する書籍について、まずは古書市場等での入手を試み、入手が不可能と判明した場合には代替する書籍の購入に充てる。
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