研究課題/領域番号 |
22K00121
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
小泉 順也 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (50613858)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フランス近代美術 / コレクション / 美術館 / 印象派 / ポスト印象派 / コレクター |
研究実績の概要 |
2022年度前半はコロナ禍の影響が続き、日本の美術館においては所蔵するコレクションに光を当てた企画展、あるいは歴史や沿革を取り上げた展覧会が多数開催され、それらを確認する機会を設けた。具体的には、京都国立近代美術館における「西洋近代美術作品選」、大阪中之島美術館の展覧会、栃木県立美術館の「題名のない展覧会:栃木県立美術館50年のキセキ」展、山梨県立美術館の常設展などを確認し、コレクションの重要性を再確認した。 2022年11月はヨーロッパに出張し、オーストリア、ドイツ、イギリス、ベルギー、フランスの主要都市を見て回り、美術館および図書館でコレクション調査を実施した。そこでは新設された美術館や最近の作品収蔵、以前より複雑になった個人コレクターと美術館の関係性などを確認した。なお、本出張の過程で、盛んに報道された環境活動家による美術作品への破壊行為の痕跡を目の当たりにし、美術や美術館を取り巻く現在の社会的状況の変化について考えを深める貴重な機会となった。 研究発表の実績としては、2023年2月28日に開催された国際シンポジウム「芸術作品の流通と美術コレクション形成―通時的/共時的分析とデータベース」において、「日本の美術館におけるフランス美術コレクション」と題した研究発表を行った(招待あり)。本発表を通して、日本各地の関連する美術館を時系列に沿って可能な限り網羅的に紹介し、今後の研究課題をまとめる機会となった。 また、2023年3月18日から6月11日の会期で東京国立近代美術館で開催された「憧憬の地ブルターニュ」展の図録に、「ポール・ゴーガンとブルターニュ:日本の美術館コレクションをめぐる横断的考察」と題したコラムを寄稿した(招待あり、pp.88-91)。ここではブルターニュの関連作品を多数所蔵する日本のケースを分析し、各国のコレクションが芸術家像にもたらす影響を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年から続いた海外渡航の制限が緩和されて、2022年度は3年ぶりにヨーロッパでの調査研究を実施した。そこでの成果を踏まえて、研究発表および研究論文等にまとめる準備ができたと言える。 また、2023年2月に実施した研究発表「日本の美術館におけるフランス美術コレクション」を通して、日本の美術館の歴史に対する基礎研究と現時点の研究課題が見えてきた。さらに、2023年3月に国立西洋美術館の展覧会カタログに発表した「ポール・ゴーガンとブルターニュ:日本の美術館コレクションをめぐる横断的考察」を通して、コレクションと芸術家受容を関連させた個別研究の事例を示すとともに、この方法論を他に援用できる可能性を確信した。以上の理由から、本研究課題の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果の発表の場として、2023年5月22日に言語社会研究科主催のワークショップ「日本の美術館とブルターニュ」をオンラインと対面のハイフレックス方式で開催する予定である。国立西洋美術館では2023年3月18日から6月11日までの会期で「憧憬の地ブルターニュ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」展が、SOMPO美術館では3月25日から6月11日の会期で「ブルターニュの光と影―画家たちを魅了したフランス<辺境の地>」展が開催されている。本ワークショップのプログラムは、上記の展覧会の担当学芸員2名に、図録執筆や開催準備に関わった2名を加えた計4名の研究発表と全体討議の二部構成になっている。報告者は「日本の美術館に残されたブルターニュの痕跡」と題した発表をここで実施する予定である。このイベントを通して、大学と美術館の学術的な連携を深め、フランス近代美術における地域性が日本にどのように受け入れられたのかを考察する機会としたい。 現地の調査研究としては、2023年夏にフランスおよび周辺国(イギリス、オランダ、デンマーク、スイス等から調整予定)への出張を検討している。しかし、スケジュール調整や予算の関係で2023年度の実施を見合わせる可能性も残されている。実行できない場合には、2022年度に実施しなかった国内美術館の調査に時間と予算を充てたい。具体的には、関西地方より西の美術館、東北地方及び北海道の美術館の現地調査を想定している。コロナ禍以降に閉館となった美術館もあり、コレクションの現状なども可能な範囲で確認することを目指したい。 以上を踏まえて、2022年度の研究成果および2023年度の新たな調査結果をまとめた論文を執筆し、言語社会研究科紀要『言語社会』などに投稿する予定である。
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