研究課題/領域番号 |
22K00137
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研究機関 | 尚絅大学 |
研究代表者 |
畠山 真一 尚絅大学, 現代文化学部, 教授 (20361587)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 戦前物語マンガ / 初期映画 / スラップスティック / 古典的ハリウッド映画 |
研究実績の概要 |
初年度については,田河水泡作品である『目玉のチビちゃん』と『のらくろ』(雑誌連載版および書籍収録版の両方) を映画技法の観点から調査・分析をおこなった。 『目玉のチビちゃん』については,冒頭のタイトルに「目玉のチビちゃん出演」といった映画のオープニング・タイトルを模した部分があるものの,1915年代までに完成されていた古典的ハリウッド映画で用いられていた映画技法を漫画に取り込んだものは,いくつかの例外を除けば,ほぼ見いだすことができず,いわゆる「初期映画」的な技法に対応する技法が使用されていた。また,視点を固定したままではあるものの,複数コマを用いて映画で言うところの1シーンを描写する箇所を見出すことができ,呉智英の言う1コマ=1シーンという一般化がこの時点ですでに崩れていることが確認できた。 『のらくろ』についても同様であり,カメラの運動をマンガ的に実現したコマ割りが散見されるものの,『目玉のチビちゃん』と同様にほとんど1915年以前の映画技法を想定することで説明可能であることが明らかになった。また,明らかに空間的なコンティニュイティが見られないコマ割りも観察でき,この意味でも初期映画的である。 さらに,1920年代における日本の映画受容状況を調査していくなかで,1929年に連載開始された『目玉のチビちゃん』,1931年に連載開始された『のらくろ』に古典的ハリウッド映画の技法がほとんど見られないことは,1920年代における日本の児童の映画体験およびアメリカ・アニメーション作品を経由してのスラップスティック作品からの影響が重要であったという暫定的な分析結果を得た。現在,この分析結果のとりまとめを報告すべく,論文を作成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,『のらくろ』を中心とする田河水泡作品を古典的ハリウッド映画研究の観点から分析するという目標であり,この目標については概ね達成することができた。 戦前の『のらくろ』作品については,全作品を古典的ハリウッド映画研究の視座から分析し,加えて,それ以前に発表された田河水泡作品の多く (『目玉のチビちゃん』など) の一次資料にあたり,同様の分析をおこなった。その結果,基本的に田河水泡作品はいわゆる「初期映画」的な映画技法を用いて,物語を展開していることが明らかになった。 さらに,1920年代から1930年代の日本における子どもの映画受容のあり方についても,ある程度の一次資料にあたることができ,少なくとも映画観客の20%以上がいわゆる「小人」であり,映画が子どもにとっての一次的な娯楽であったことを確認することができた。 これらの調査に基づき,田河水泡作品については,1920年代に日本に流入してきたアメリカ・アニメーション作品の技法やスラップスティック短編映画および1910年代から1920年代初頭にかけて成立したチャンバラ映画の技法などの影響が見られるのではないか,という暫定的な仮説を得た。 さらに,『のらくろ』における視覚的な語りに対し言語的な語り (「ふきだし」に記されるセリフ) の優越については,立川文庫から続く『少年倶楽部』の特質が関係しているという分析をおこなった。 これらの成果から,進捗状況としては,「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後については,初年度に得られた分析を学会発表等によって報告することによって,分析手法・分析結果に関するフィードバックを得るとともに,田河水泡作品に対して,次の4点について調査・分析をおこなう予定である: (1) アメリカ初期アニメーション作品の日本における受容; (2) 海外のマンガからの影響関係; (3) 1920年代の日本マンガや芸術運動からの影響関係 (1) については,権田保之助の著作や,『映画教育』や『婦人の友』といった当時の雑誌や新聞記事などに見られる言説を中心に調査をおこなう予定である。さらに,当時上映されていたアニメーション作品のリストを作成し,田河水泡作品への影響の可能性を精査したい。 (2) については,あらたに研究分担者となった三浦知志を中心としたプロジェクトを実施する予定である。とくに,翻訳・翻案マンガからの影響関係を分析し,アニメーション作品以外の影響の可能性について考察する。 (3) については,岡本一平作品および北沢楽天作品に見られる複数コマで物語を語る形式を持つ作品と田河水泡作品の同一性と差異を調査し,この水脈からの影響関係についても精査したい。さらに,1920年代にひとつの潮流をなしていた芸術運動であるダダイズム,未来派,ロシア構成主義との関連性 (田河水泡が参加していた「マヴォ」とのかかわり) についても分析を行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,コロナウイルス禍により一次資料の文献調査のための旅費執行が十分におこなえなかったことに起因している。 2023年度については,コロナウイルス感染症が5類に移行したことにともない,2022年度に実施できなかった調査にともなう旅費を執行することを予定している。 加えて,昨年度にひきつづき資料収集を行うことで今年度得た助成金と合わせて適切な執行を行うべく計画している。
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