研究課題/領域番号 |
22K00141
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 卓史 京都大学, 文学研究科, 准教授 (90644972)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 閾 / 外延的明晰性 / バウムガルテン / カント / 人間学 / 量質転化 / ジンメル / 貨幣 |
研究実績の概要 |
本研究は、「美しい」「崇高だ」「滑稽だ」等の「美的性質(aesthetic qualities)」を「閾(threshold)」という概念、すなわち、徴表や刺激などの要素の「量」が「質」へと転化する現象として説明しうるという仮説の下、そのような言説を美学史、とりわけ、この学が成立した18世紀の中に探って再構成・系譜化するものである。 研究初年度となる本年度は、依頼された仕事との兼ね合いに鑑みて当初計画を微修正し、バウムガルテンとカントにおけるこの概念の再解釈から手をつけた。バウムガルテンにかんしては、メンケ『力 美的人間学の根本概念』の翻訳・解題執筆および日本18世紀学会編『啓蒙思想の百科事典』における「美学の誕生」の項目執筆を通じて、その「外延的明晰性」(或る事物を他の諸事物から識別するための徴表そのものがさらに分析されて判明になる「内包的明晰性」ではなく、徴表そのものはそれ以上分析できず混雑したままだがその数の多さを特徴とする明晰性)という概念の数学的含意について考察した。またカントにかんしては、カントの人間学講義開講250年を記念して開催された日本カント協会でのシンポジウムでは、カントの人間学講義開講の「前史」とでもいうべき状況を1760年代のカントとヘルダーとの関係に即して描きつつ、その「量」と「質」との関係について考察した。 さらに年度末には、当初計画に直接的には含まれていないが本研究の発想源であるジンメルの「閾」概念を、本来の文脈である「貨幣」の問題に引き戻して再考し、貨幣と芸術をめぐるコロキウムにて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究に先立つ科研費による研究課題(「Empfindnis概念の系譜学的検討―美学の「感性論的転回」への概念史的寄与」18K00126)をコロナ禍で再延長したことにより、本研究の開始が遅れたため。本研究の成果の一端を発表する予定であった第22回国際美学会議(於ベロ・オリゾンテ[ブラジル])が、当初の2022年7月開催からコロナ禍で1年延期となったことにより、本研究の成果の一端を発表して専門家からの反響を確認する機会が後ろ倒しになったため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、バウムガルテンとカントそれぞれにおいて、量質転化という契機からその美学思想全体を照らし出す見取り図を描き出すよう努める。バウムガルテンにおいては、そのテクスト内在的な量質転化の全体構造については見通しを得たが、当初計画で目的として挙げた、自然科学の影響についても、文献を渉猟して解明に努めたい。カントにおいては、その崇高論冒頭(『判断力批判』§26)における〈数学的-感性的(aesthetisch)〉という奇妙な対概念を手がかりに、ここへと至るカントの思考の道筋を描き出すよう努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果の一端を発表する予定であった第22回国際美学会議(於ベロ・オリゾンテ[ブラジル])が、当初の2022年7月開催からコロナ禍で1年延期となったため。この会議への旅費に充当する。
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