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2022 年度 実施状況報告書

美術作品における筋膜の表現と筋膜の解剖学的構造

研究課題

研究課題/領域番号 22K00166
研究機関順天堂大学

研究代表者

阿久津 裕彦  順天堂大学, 医学部, 非常勤助教 (70785807)

研究分担者 加藤 公太  順天堂大学, 医学部, 助教 (80734615)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワード美術解剖学 / 肉眼解剖学 / 大腿筋膜 / 19世紀
研究実績の概要

令和4年度の進捗としては、ポール・リシェが1890年に記述した大腿筋膜の弓状支帯について、解剖実習体の下肢10側の大腿筋膜の解剖所見をとった。大腿筋膜の弓状支帯は大腿前面で膝上3横指ほどの高さを弓状に走行する筋膜の肥厚部で、特に力を入れずに直立した時に内側広筋の下端部の筋腹を押さえつけ、体表から観察できるほどの溝を作る。大腿筋膜の弓状支帯が作る溝はピエール=ニコラ・ジェルディが1829年に出版した体表解剖学書のなかで記載した。ジェルディの記述は推測に基づく部分が多く、その後リシェが1890年に解剖所見と共に記述し、現在に至るまで美術解剖学の教科書にたびたび記載されている。
大腿筋膜の弓状支帯がなぜ医学の解剖学書に記載がなされなかったかといえば、古代ギリシャ時代のヘレニズム期以降の彫刻や絵画作品の膝に大腿筋膜の弓状支帯によるものと思われる溝が明瞭に表現されていたからである。美術領域で人体構造の教育を行う上では避けて通れない構造であったためジェルディは記載に踏み切ったものの、実際の人体では明瞭に観察できる人と、不明瞭な人がいたため、推測を交えて記載することとなった。
調査の結果は観察に使用した解剖体の全例で弓状支帯が観察できた。年齢や男女に優位差は見られなかった。筋膜の厚みについては肥厚しているタイプと比較的薄いタイプが見られた。弓状支帯の深層部分の付着部に関しては内側では内転筋結節のやや前方、外側では腸脛靱帯の深層の外側上顆に付着していた。こうしたバリエーションや深部の付着部はポール・リシェの記述には見られないもので、今回の研究によって得られた新しい所見といえる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

現在は大腿筋膜の弓状支帯について、表面からの構造について観察が完了した。大腿筋膜の弓状支帯の歴史的な背景については、ジェルディの記述とリシェの記述について調査が完了している。ジェルディがなぜ大腿筋膜の弓状支帯が作る溝を記述しなければならなかったかといえば、当時のアカデミックな美術様式が新古典主義、すなわち古代ギリシャ時代のヘレニズム期の彫刻を中心とした古典作品を志向していたためである。当時よく知られていたヘレニズム期の彫刻には、ほぼ必ずと言ってもよいほど弓状支帯の溝が表現されていた。医学の解剖学では割愛できていた構造だが、美術領域の解剖学では無視することができなかった。そこでジェルディは推測を交えて記述することとなった。
残す調査としては深部の構造と付着部の観察のみである。この部分はリシェの記述に含まれていないため、方法を含めて慎重に所見を取る必要がある。

今後の研究の推進方策

大腿筋膜の弓状支帯について、解剖所見に基づいて模式図を描き、構造を視覚化していく。そのために作図資料となる解剖写真を複数方向から撮影し、最も鑑賞者が理解しやすい視点を探る。深部の構造においては弓状支帯を切開し、筋を避けて撮影する。筋膜の切開方法としては内側広筋の筋腹の幅を二等分する部分が最も深層との癒着が少なく、筋膜等の結合組織を含めた周辺構造への侵襲が少ないと考えられる。また、明瞭に観察できるタイプと不明瞭なタイプに分けるなど形状の分類も行う。同時にジェルディやリシェの記述調査で得られた歴史的な内容をまとめ、論文の本文を作成していく。

次年度使用額が生じた理由

研究のために使用予定の機材をより安い価格で販売する業者が見つかったため。翌年度以降の論文校閲費などに充当する。

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公開日: 2023-12-25  

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