研究課題/領域番号 |
22K00179
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
増記 隆介 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (10723380)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 国宝「普賢菩薩像」 / 裏彩色 / 蓮華王院宝蔵 / 後堀河天皇 |
研究実績の概要 |
今年度は、主に修理委員会の委員として事業に深く関与した東京国立博物館の国宝「普賢菩薩像」の3ヵ年にわたる修理の過程で判明した技法の詳細について検討し、特にその裏彩色の技法が同時代の菩薩を描いた他の作例と比較して極めて珍しいものであることを明らかにし、その意義を考察した。また、あわせて修理中の調査を行った国宝「阿弥陀聖衆来迎図」(有志八幡講十八箇院)については、菩薩に裏彩色が施されていないという同時代の仏画においては他に例のない表現を有していることを確認し、前者と比較しながらその意味を考察した。 「普賢菩薩像」の技法に関する検討内容については、その成果を広く国際シンポジウム、講演会、座談会、書籍等で公表した。また、平安時代初期を代表する作例である国宝「両界曼荼羅図(伝真言院曼曼荼羅)」(東寺)の調査を、所蔵者の東寺及び寄託先の奈良国立博物館の協力を得て実施した。その結果、技法の細部に本作以降の平安時代の作例には認められない線描技法が用いられていることを確認した。また、比較作例として10世紀半ばの醍醐寺五重塔壁画のうち「閻魔天像」(福岡市美術館)の調査を実施し、焼鏝等を用いる等、板絵ならではの特徴的な表現のありようを把握した。 また、世俗画の検討については、鎌倉時代初期の後堀河天皇周辺における絵巻制作の具体層、また平安時代末に後白河法皇によって形成された蓮華王院宝蔵所在の絵画の後堀河天皇周辺における受容について従来の説を再検討し、それらの誤謬をただす新たな説を提示し、学会発表、論文、一般書籍等によりその成果を広く公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
仏画作品についての調査、研究は順調に進捗している。一方、世俗画作品については、史料の検討とそれに基づく研究は順調に進んでいるものの、実作品の調査については、より意欲的に進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、絹に描かれた肖像画等、世俗的な絵画の調査をより精力的に行うことが必要となる。特に平安時代の世俗人物の肖像画等が残されていない状況から、日本絵画のみではなく、同時代の北宋や南宋の肖像画、また鎌倉時代前期の肖像画等を調査する。これらの作品については、海外に所在するものも多く、コロナ禍が落ち着きを見たこともあり、台北・国立故宮博物院、米国・メトロポリタン美術館、イエール大学美術館等の調査を積極的に行う。また、「山水屏風」等、肖像画以外の世俗絵画作品については、個人所蔵の作品も含めて国内調査を積極的に行う。
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