研究課題/領域番号 |
22K00182
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石井 祐子 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (60566206)
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研究分担者 |
長名 大地 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 研究員 (00850900)
進藤 久乃 國學院大學, 文学部, 准教授 (40613922)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シュルレアリスム / 展覧会 / 展覧会カタログ / 展示空間 |
研究実績の概要 |
2022年度は、研究計画に従い以下の二点を中心に研究を進めた。 1)シュルレアリスムにおける展示をめぐる言説と理念を批判的に再考察するため、同時代の展示をめぐる言説と理念を概観し、シュルレアリスム美術の展開における本テーマの広がりを再考した。この成果の一つとして、グラスゴー大学のシュルレアリスム研究者らと行ったワークショップで口頭発表を行い、議論を深めた。また、研究分担者(進藤久乃)は、ブルトンのテクスト(美術批評、自伝的レシ、詩作品)から展示論を抽出し、ポエム・オブジェとの関連など多角的な観点から考察を進めた。研究協力者(長尾天)は、口頭発表および論文において、街路としての展示空間をシュルレアリスムという問題系にどのように位置づけることができるのか、シュルレアリスムの展示空間を包括的に捉えるための理論的・理念的モデルを示した。 2)いくつかの事例の展示空間と印刷空間について、作品・イメージの取捨選択や構成論理等から互いの構造的関係を分析した。特に、1938年のシュルレアリスム国際展に際して刊行された『シュルレアリスム簡約辞典』(アンドレ・ブルトン、ポール・エリュアール編、パリ、ボザール画廊、1938年)の構成を分析し、掲載された図版と展覧会出品作を同展目録や一次資料等を参照しながら比較考察を行った。その成果の一部は今年度執筆した論文に反映されている。研究分担者(長名大地)は、展覧会研究において、展覧会カタログや展示プランを含む史資料や記録、アーカイヴズとどのように向き合うのかについて、一つの実践的研究として展覧会に結実させた。この成果は、展覧会研究における重要なテーマのひとつである「再演」の問題や、最新のテクノロジーを用いて過去の展覧会を再構成する際の問題などを実践的に考察するものであり、シュルレアリスムの展覧会研究においても有意義な議論の契機となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(研究体制の構築)初年度は研究メンバー間で研究の方向性の確認や先行研究に関する勉強会、基礎的研究の推進を中心に行うため、定例会を計8回開催した。当初の予定以上に研究分担者・研究協力者と密に連携・意見交換しつつ研究を進めることができた。 (成果発表)本研究課題に取り組むメンバーが各々、口頭発表や論文として成果を発表したほか、英国の大学とのワークショップや国内での展覧会の実施によって、幅広い領域と形態で広く議論を深めることができたことも大きな収穫であった。よって、全体としておおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は具体的な事例研究をさらに推進するとともに、その成果を公開研究会やシンポジウム等で発表して議論を深める予定である。次年度は、1920年代、30年代の展覧会カタログや一次資料(展示空間の写真や展評、広告等)のなかで未入手の史資料を調査するためパリのアーカイヴ等で渡航調査を行うほか、1940年代以降の事例、すなわち「First Papers of Surrealism」(1942年、NY)、「Le Surrealisme en 1947」(1947年、パリ)、「Exposition InteRnatiOnale du Surrealisme EROS」(1959年、パリ)等を視野に入れ、アメリカの関連アーカイヴ等での調査も併せて行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主に研究体制の構築と研究に必要な一次文献や史資料、二次文献の収集のため計画通り予算を使用した。一方で、近年の海外渡航費の高騰を鑑み、今年度はオンラインを有効に活用することによって一部の予算を次年度以降の海外渡航旅費に繰越して使用することとした。繰越額は予算のごく一部であり、次年度も研究計画と進捗を慎重に判断しつつ適切に予算を執行予定である。
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