研究課題/領域番号 |
22K00185
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
京谷 啓徳 学習院大学, 文学部, 教授 (70322063)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 仮設性 / 仮設装飾 / 仮設建築 / 舞台美術 / アッパラート / パヴィリオン / インスタレーション / スペクタクル |
研究実績の概要 |
本研究は「仮設性」をキーワードとするが、日本語の「仮」には、「間に合わせであること」、「本当・本来のものでないこと」というネガティブな価値判断が含まれることがある。対して、これらの現象を扱う際、英語ではテンポラリティ(tamporarity)とエフェメラリティ(ephemerality)が使われる。本研究の出発点として、「仮設性」をテンポラリティとエフェメラリティに分解し、まず本研究の概念規定を行った。一口に「美術の仮設性」といっても、そこには、作品の展示のテンポラリティ、作品の存在のテンポラリティ/エフェメラリティ、あるいは作品の素材そのもののエフェメラリティなど、様々なファクターが濃淡も様々に絡み合って、「仮設性」を形作っていることを考察した。 美術館制度の中では、テンポラリーな展示といえば特別展ということになるが、それ以前、美術作品は、とりわけ宗教的な文脈において、テンポラリーに使用されていた。開閉式扉のついた多翼式祭壇画や、祝日の聖遺物展覧など、事例を収集し、分類・考察を行った。 また演劇・舞台芸能における、舞台美術・舞台装飾も仮設の美術の重要な一翼を担う。その事例を収集し、演出上の効果や、それがその時代の美術とどのような関連を持っていたかについて検討した。またとりわけ仮設性の高いジャンルとして、大衆演劇における舞台美術についても、幅広い調査を行った。 仮設の美術について、テクストと記録図像・写真双方における一次資料の収集と整理をおこなった。収集整理は今後も継続し、仮設の美術に関するデータ・ベースの構築を目指す。それはいずれ、様々な分野の研究者による共同研究の土台としての役割も果たすことになるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究実績の概要に示したように、当初の研究計画に従い、おおむね順調に研究目的が達成された。新型コロナウイルス感染防止の観点より国外調査は中止とし、資料調査に関しては、国内の図書館や研究機関等に所蔵されるものを中心におこなった。2冊の辞典『キリスト教文化辞典』『啓蒙思想の百科辞典』(いずれも丸善出版部)のために活人画に関する項目を執筆した。仮設物をエトランジェとみなす観点からの論考を『美術フォーラム』に発表した。また額縁ショーに関するエッセイや、大衆演劇の劇場装飾にも言及する論文を発表した。研究発表は3回行い、活人画、大衆演劇、祝祭のスペクタクルなどを扱った。事典項目執筆、論文・エッセイ執筆、学会発表などを行い、研究成果をしかるべくアウトプットすることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き仮設の美術に関して、テクストと記録版画・写真双方における一次資料の収集整理をおこない、データ・ベース構築を目指す。また、当初の研究計画に記載した、「隠蔽と開示のシステム」によって生み出されるテンポラリティの事例収集に努める。また本年度から引き続き、舞台美術・舞台装飾の事例を収集し、その意義についての分析を進めていく。それら調査を、ヨーロッパの主要図書館における調査や国内研究機関の調査等により推進する。また研究成果を研究会や論文等で発表することに努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため国外調査を断念し、それに充てていた予算は一部を国内旅費などに回したが、使い切ることが出来なかった。それについては、本年度に予定している国外調査旅費に加えることとする。
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