研究課題/領域番号 |
22K00196
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館 |
研究代表者 |
山川 曉 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部企画室・企画室/工芸室, 室長 (70250016)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 袈裟 / 伝法衣 / 頂相 / 禅宗 / 相伝 / 夢窓疎石 / 織物 |
研究実績の概要 |
研究の初年度である本年度は、鎌倉・室町時代において京都、鎌倉、諸地方の中核となっていた禅宗寺院に関連する参考文献を収集することに努め、伝法衣の所在確認を進めることを中心に研究を進めた。まず、地方公共団体の文化財に指定されている袈裟を確認し、これまでに開催された禅宗関係の展覧会に出品されている袈裟のリスト化を継続して実施した。新型コロナウイルスの流行が未だ収まらない時期でもあったため、外部での作品調査は控え、所属する京都国立博物館に収蔵される寄託作品を中心に、袈裟に用いられた生地の織物構造分析を中心に調書の作成を進めた。あわせて、調査作品の所用者に関する僧伝や語録、関連寺社伝来の古文書などの文献史料を収集し、当時の人々の「師から受け継いだ袈裟」すなわち伝法衣についての認識という観点から、史料の精読を行った。 その研究成果の一部は、「乱世の七朝帝師 夢窓疎石の頂相と袈裟」と題し、京都国立博物館夏期講座(8月6日)において発表している。本発表では、江戸時代に発刊された『夢窓国師語録拾遺』に収載された夢窓疎石自身の言葉から、伝法衣に対する思い、死後の伝法衣の処遇について語る箇所を取り上げ、夢窓が伝法衣に期待した役割について考察した。加えて、国際博物館会議プラハ大会にオンライン参加し、「The Role of Buddhist Surplices Kasaya in Rituals: with a focus on the Suiriku-e Rite」と題し、「儀礼と服飾」という共通テーマについて討議する国際服飾委員会(8月22日)において、日本に伝法衣として伝来した袈裟が、本来は水陸会という仏教儀礼で着用することを意図して中国で製作された可能性について発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
関連文献の収集が進み一定の成果を挙げているが、社会情勢もあって作品調査に至っておらず、大型で脆弱な作品を取り扱うために計上している謝金を執行することができなかったため、やや遅れていると評価する。 しかしながら、これまでに調査した作品の研究成果を日本国内のみならず国際学会においても発表しており、研究成果の公開という点においては計画以上に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き関連文献の収集と現存する伝法衣の所在調査を進めリスト化する。あわせて、すでに失われ現存しない伝法衣についても、関連文献を集積し心性史の観点からの考察を行う。 令和五年度は、移動が自由にできる社会環境が整ってきたため、懸案の作品調査を実施する。調査にあたっては、重要な作品と認識されていても保存状態が思わしくなく、開披することができなかった作品を中心に、染織文化財保存修理者の協力のもと開披および撮影を行う。伝法衣は寺院において特別な重宝とみなされているため、調査の許可を得ることは簡単ではない。作品調査にあたっては、すでに許可を得ている作品から着手し、未許可作品については、地方公共団体の博物館施設や文化財保護委員会などへ助力を仰ぎつつ所蔵者の理解を得るよう努め、可能な範囲で実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
周囲に新型コロナウイルス罹患者が次々と判明したため国内における移動も難しく、旅費として計上していた金額を執行することができなかった。一部は書籍代などに充当したが、残額が発生した。今年度の残額は、令和五年度分の旅費に追加して使用する予定である。
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