研究課題/領域番号 |
22K00214
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研究機関 | 東北生活文化大学 |
研究代表者 |
落合 里麻 東北生活文化大学, 美術学部, 講師 (00713710)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 女乗物 / 形態 / 装飾 / 江戸時代 / 駕籠 |
研究実績の概要 |
令和4年度は福井県と茨城県を中心に調査を行った。 福井県大野市の柳廼社(やなぎのやしろ)蔵の紺地牡丹唐草天鵞絨貼女乗物を調査した。この女乗物は「守貞謾稿」における順位付けでは2番目の天鵞絨巻女乗物に該当する。屋根の形が女乗物の特徴の一つである唐破風状とは異なり円弧状だが、その他の比率や大きさ、仕様は女乗物の特徴を示し、一つの様式と考える。同市内の大野市歴史博物館では水車紋忍冬唐草文様蒔絵女乗物を調査した。この女乗物は「守貞謾稿」の順位付けでは最上位の黒漆金蒔絵女乗物に該当する。唐破風状の屋根の上には赤いラシャを貼った日覆(ひおおい)が取り付けられ、付属品が全て揃う貴重な例である。屋根の曲線の形は左右の凹方向の曲線部が比較的なだらかで無理がない。外装は江戸時代後期に主流であった唐草文様の蒔絵のデザインで、担ぎ棒まで蒔絵が入ることから、使用した女性の身分の高さを反映していると考える。浄蓮寺蔵(若狭三方縄文博物館寄託)の紺地檜扇牡丹文様天鵞絨貼乗物は円弧状の屋根を持つ女乗物で、日覆が付属する。分類としては天鵞絨巻女乗物だが、生地が絹であった。外装が絹張りの女乗物は文献には記載がなく、他に現存が確認されていないため、次年度以降に詳しく再調査したい。また、この女乗物は土井家伝来の紺地牡丹唐草天鵞絨貼女乗物と形態の特徴や比率は共通するが、仕様や材質、職人の技術の一つ一つが少しずつ劣る。細かいグレードの差がこのようなところに現れることがわかった。福井県ではこの他に青漆塗の乗物を複数確認した。東北や関東には見られない仕様で、女乗物であれば研究対象となるので、情報収集と調査を継続する。 茨城県結城市の孝顕寺では1挺の女乗物を調査した。形態や比率は女乗物の特徴を示す。茨城県内での女乗物の確認は初めてだが、この他にも現存する可能性があるので、情報収集と調査を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況がやや遅れている理由として、新型コロナウイルスの感染状況の悪化が挙げられる。博物館では利用にあたって規制が設けられたり、職員がコロナ対応の業務を行うため別の機関に出向となり、館内での調査に対応できなかったりと、コロナ関連の理由で調査が簡単に行えないことが多々あった。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況としてはやや遅れているが、令和5年度は研究計画に従って(省くことなく)現存資料の調査・実測を進める予定である。令和4年度に行った調査では博物館の学芸員との繋がりが生まれ、現存資料の所在や地域性等の情報を得ることができた。それらを上手く活用し、当初の計画になかった現存資料も含め、多くの調査ができるよう努力する。令和4年度は調査で使用するレーザー距離計などの物品を揃えたが、より効率的に研究を進められるよう、令和5年度の物品費を使用して研究室や工房の環境を改善したい。具体的には、女乗物の屋根の製作実験を行う予定なので、それに向けて機械の整備や広いスペースの確保など、調査の時以外にできることを授業の合間などに効率的に進め、遅れを取り戻したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染状況の悪化によって計画通りに調査を実施できず、旅費の使用額が予定よりも少額になってしまった。次年度は計画に沿って調査を実施し、旅費を適切に使用したい。 また、物品費で購入予定の机やパソコンを発注したが、欠品や納期が大幅に遅れる可能性を伝えられ、令和4年度内の納品を諦めざるを得なかった。次年度は早めに手配して研究環境を整えたい。
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