研究課題/領域番号 |
22K00225
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
坂井 千春 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (40381925)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 女性作曲家 / ピアノ曲 / ベル・エポック / フランス音楽 / アメリカ音楽 / エイミー・ビーチ / リリー・ブーランジェ / ジェルメーヌ・タイユフェール |
研究実績の概要 |
2019年から採択された前回の研究「セシル・シャミナード:西洋音楽史上初の女性職業作曲家のピアノ作品についての考察」が、コロナで演奏会、録音の遅延などが重なり、1年延長されたため、研究実績が女性作曲家のなかでもシャミナードを中心に続いています。 昨年、シャミナードのコンサートのライヴ録音と、新たに録音したソロ曲を組み合わせたCD「シャミナード作品集」が2022年にやっと完成し、色々な分野の方にも差し上げて反響が大きかったです。特に近年、ジェンダーについて関心を持っている方は多く、なぜ、このように素晴らしい女性作曲家の作品が忘れられていったか検証に値する、というご意見が多く寄せられました。 このCDの収録曲のうち数曲は、ピアノ勉強者が多く使用しているピティナ(全日本ピアノ指導者協会)の無料サイト「ピアノ曲辞典」に掲載され、今後も続けて、より多くの方に聴いていただける機会に恵まれました。 2022年11月には、東京交響楽団とシャミナードのピアノ協奏曲(コンチェルトシュトゥックop.40)を東京オペラシティコンサートホールで弾かせていただきました。これは、おそらく本邦初演で、世界的に録音もほとんどないピアノ協奏曲です。19世紀後半の男性作曲家と同じような、大編成オーケストラを操る彼女の迫力あるオーケストレーションを、実際の音で公開できたことは意義のあることでした。 昨年度は女性作曲家セシル・シャミナードの作品をCD、演奏会などを通じて、一人でも多くの方々に触れてもらい、少し世の中に広めることができたと自負しております。今後はシャミナードの作品研究、普及のみならず、他の女性作曲家の作品にも広げて、女性作曲家の作品が研究に値することを証明していきたいと思います。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全音楽譜出版社から出版予定のシャミナードピアノ作品集2巻の運指、ペダリング部分は完成しましたが、まだ曲目解説、演奏についての助言のパートが残っています。それを仕上げて今年度中に出版に持ち込めるように努めます。 シャミナードのピアノ作品を研究しているときに判明した、男性編者による画一的なアーティキュレーションの変更、それによって損なわれた女性らしい繊細さや、即興性の問題点をさらに深く考察し、現在残っている楽譜や初版などの資料から、リリ・ブーランジェ、ジェルメーヌ・タイユフェール、エイミー・ビーチなど他の女性作曲家のピアノ作品についても同じように、研究をすすめていくつもりです。 ただ、シャミナードの演奏に時間が費やされていたので、他の作曲家についてはまだ資料収集の状況です。
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今後の研究の推進方策 |
完成したシャミナードの作品集CDをボストンにあるシャミナード・クラブに送り、コンタクトを取る予定です。交渉がうまくいけば、ボストンに行って演奏し、日本の女性作曲家の作品も紹介したいと思っています。 シャミナードと同世代のアメリカの女性作曲家で、シャミナードと文通で深い親交のあったエイミー・ビーチもボストン出身なので、アメリカに行った時に彼女についての資料収集も行うつもりです。この二人はほぼ同時代を生きていますが、その生き方は対照的です。自身の作曲と演奏のみによって経済的に自立し、一時結婚はしましたが、短い期間で死別し、ほぼ独身だったシャミナード、移動の自由は制限されましたが、年上の夫の安定した庇護のもと作曲に専念したビーチ。二人の女性の生き方は現代の働く女性に通じる問題点もあり、興味深い課題です。 そして、少し後の世代のフランスの女性作曲家、ジェルメーヌ・タイユフェール、リリー・ブーラジンェの作品研究も同時にすすめていく予定です。
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次年度使用額が生じた理由 |
CD作成費用が、見積額より少なかったため、残額は次年度の必要経費、図書、楽譜の購入に充てたいと思います。
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