研究課題/領域番号 |
22K00228
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
齋藤 陽一 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (30205687)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | スタニスラフスキー・システム / 新劇と演劇鑑賞会 / 新劇と小劇場 |
研究実績の概要 |
研究期間の2年目にあたる2023年度は、日本におけるスタニスラフスキー・システムの導入、発展状況をさぐるために、1960年代以降の演劇鑑賞団体、その中でも特に労演の運動に焦点を当て、毎年の総会の場でどのようなことが議論されていたのかを探った。研究の結果、労演の活動自体は、演劇を主な対象とする文化的な社会活動であるにも関わらずかなり政治的で、1.大資本に演劇が支配されることへの反対運動であったり、2.時に労演と親和性の高い新劇に対してもその政治姿勢を批判をしていたということが分かった。さらに、3.その一方で市民運動を基礎とした新しい政治的な活動に対しては多分に懐疑的な議論も多いことが分かった。 この点が、所謂新左翼と親和性が高かったとも言える小劇場運動が出てきた時に、労演は新劇に固執する方向に向かい、それに対し、労演の総会の場ではスタニスラフスキー・システムへの言及はほとんどなかったにも関わらず、小劇場運動は、スタニスラフスキー・システムに懐疑的になった原因とも考えられるのだが、結論は今後の研究の中でより精度の高いものを導き出したいと思う。 また、学生バイトを雇用し、現代の日本の劇団の公演ちらしを整理することにより、果たして現代でもスタニスラフスキー・システムを前面に掲げて公演を打っている劇団があるのか、そもそも、ロシアの戯曲を昔ながらのスタイルで公演している劇団はあるのかということを調査した。予想通り、スタニスラフスキー・システムを標榜する劇団は少なかったが、皆無ではなかった。また、ロシアの戯曲については、やはり、ロシアの戯曲であるということがいわば「ステータス」になるということはなく、評価の定まった古典が上演されていることが分かった。また、ちらしだけでは正確には分からないが、それを新しい演出方法により公演していると思われる団体もわずかながら存在していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度に地域の鑑賞団体を訪問し、上演された演劇のスタイルを研究することが予定されていたが、一つは、労演の資料の読み込みが進まず、そこにまで至らなかった。また、こちらが遅れている根本的な理由になるが、ロシアへの資料収集の実現可能性が危ういために今後の見通しが立たず、どういう観点で鑑賞団体の調査を進めるかが決められず訪問に至らなかった。 今後の研究方針については別の項目に譲るが、いずれにせよ、遅れている鑑賞団体の調査を、現状で立てられる方針のもと、すすめていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、ロシアにおける調査は断念する予定である。そのため1年遅れとなった地方の鑑賞団体への調査を行いたいと思う。進め方は、すでに解散してはいるが、新潟の「演劇鑑賞会」の関係者へのインタビューを通じ、小劇場演劇が誕生した頃(60年代後半から70年代)の鑑賞会組織の状況(政治とどの程度関わる組織であったか、小劇場運動が出てきた時の会の反応、スタニスラフスキー・システムや新劇との親和性など)を調査し、現在でも活発に活動している2、3の鑑賞団体を紹介してもらい、出張することで資料を収集したい。 また、ロシアにおける調査は断念するが、日本からネットを通じて入手できる資料(例えば、モスクワ芸術座のサイトにはАрхивという項目も存在する)をできる限り集め、来年度においていきなりにはなるが本調査を行えるよう、準備を進めたいと思う。ただし、政治的な状況により、来年度の渡航が不可能な場合、一旦休止し、その翌年に調査をする、つまり、1年延期をさせて頂くことも視野に入ってはいる。 資料の収集については、スターリン時代の文化状況を明らかにするために、日本語文献、ロシア語文献(書籍)を収集する予定である。また適宜、国立国会図書館等での資料収集を今年度も継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度、各地方の演劇鑑賞会への調査研究を行うことができず、そのための調査旅費の支出がなかったために「次年度使用額」が生じた。これについては2024年度の後半において、使用する予定である。 また、ロシアへの調査の予定が立たず、それに伴う資料の収集がおろそかになり、これも「次年度使用額」が生じた原因となっている。こちらも2024年度に資料収集を再開し、使用する予定である。
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