研究課題/領域番号 |
22K00241
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
井口 はる菜 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60770120)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 三味線音楽 / 地歌 / 三味線組歌 / 古楽譜 / 復原演奏 / 柳川三味線 / 柳川流 |
研究実績の概要 |
2023年度は、柳川流三味線組歌の口三味線を記した『五線録』『柳川流本手組大意全書』『三絃独譜』(以上写本)と、これらとは異なる記譜法によって三味線と歌の譜を併記している『弦曲大榛抄』(刊本)にそれぞれ収録されている楽譜から解読・復原した表組《浮世組》全編を吟味して現行楽譜化し、復原作業の研究協力者(林美恵子先生・林美音子先生)が9月に開催する社中の定期演奏会「地歌・箏曲演奏会」において、各門下生(総勢約30名)とともに披露演奏することが第一目標であったので、9月まではその披露演奏を成功させるために、楽曲の演奏を何度も練り合わせる演奏研究を中心におこなった。その結果、2023年9月24日に京都府立府民ホール・アルティにて無事に復原曲《浮世組》の演奏発表をおこなうことが出来た。また、その披露演奏に使用した解読譜の五線譜化作業を、柳川流の楽曲の五線譜化に精力的に取り組んでいる鈴木由喜子氏に依頼し、作成していただいた。それと並行して中免《七つ子》全編と《七つ子》へ繋げるための《浮世組》末尾の楽譜の解読・翻譜作業にも取りかかっている。《七つ子》の復原については、古楽譜の解読はもちろんであるが、《新七つ子》という楽曲が柳川流にのみ存在し(但し一度伝承が途絶え、故津田道子師によって古楽譜より復原されたものが柳川流に伝わる)、その楽曲にもともとの《七つ子》の旋律が残っていることが判明している(但し、完全なる一致ではない)ため、復原曲《新七つ子》も参考に復原することとなった。幸いなことに、復原作業の研究協力者である林美恵子先生は、生前の津田道子師より直々にこの《新七つ子》の稽古を受けておられ、津田師から教えられたことをその当時の復原楽譜に細かく書き残しておられたこともあり、その内容と今回の解読内容とを照合しながら、今回の復原曲を吟味することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度全体としては14回の研究会をおこない、その都度、柳川三味線を手にしながら復原楽譜に検討を加える作業と、楽曲としての音の運びや緩急、指の動き、歌の節付けを細かく研究する機会を得られた。その中で、研究計画では《浮世組》の復原演奏の発表を第一目標に掲げていたので、予定通り2023年9月24日開催の「林美恵子と門下による第48回地歌・箏曲演奏会」(於京都府立府民ホール・アルティ)にて本研究で復原した《浮世組》を披露演奏できたことは大変有意義であり、大きな成果であった。また、その披露演奏に使用した《浮世組》解読譜(2022年度に印刷製本した現行の家庭式楽譜)を五線譜へと書き改める作業も予定通り年度内に完了することが出来た。一方、本研究で復原に取り組むもう一曲《七つ子》の復原と、各古楽譜の《七つ子》に付記されている《浮世組》後半の手(《浮世組》から《七つ子》へ繋げる三味線の手)を既に復原した《浮世組》本来の手と比較しながら復原する作業も順調に進めることができている。《七つ子》は三味線組歌の中では短編の曲ということもあり、他の楽曲ほど多くの口三味線を解読する必要はなかったが、歌の節付けは古楽譜には記されていないため、どのように復原すればよいのか思案していた。その中で、歌の節付けと曲全体の緩急の変化を知る手がかりとして、津田道子師による復原曲《新七つ子》の存在は有り難かった。《浮世組》から《七つ子》へつなげて弾く手に関しては、その解読と本来の《浮世組》の手との比較研究はすでにおこなっており、その件については日本歌謡学会創立60周年記念令和5(2023)年度秋季大会(於関西外国語大学)での講演において少し言及することができた。但し、その演奏研究についてはまだ着手できていない。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は本研究の最終年度となるため、まずは《七つ子》および《浮世組》第六歌の結句を省いて《七つ子》を続けて演奏する《浮世組・七つ子》の復原曲の完成とその現行譜(家庭式楽譜)の作成、演奏研究を目標として、これまでの復原作業を地道に続ける。特に《七つ子》の復原には津田道子師による復原曲《新七つ子》を参考に井口の解釈による解読譜を完成させ、《七つ子》単独での演奏の他、《浮世組・七つ子》を続けての演奏を試み、可能ならば年度内にどちらかの演奏を披露できる機会を得たいと考えている。《浮世組》と《七つ子》を続けて演奏することにこだわるのは、LPアルバム『三味線古譜の研究』(平野健次監修・解説,東芝EMI、1983年)では、《浮世組》の結句を省き、「ちやうど打つ」からすぐ続いて野川流富筋の《七つ子》を演奏収録し、それが「《浮世組》と《七つ子》を続けた演奏を初めて収録する音源」であると解説書に書かれているが、単に《浮世組》の第六歌の途中までの演奏の後に《七つ子》を演奏しているだけで、それは古楽譜に書かれているような《浮世組》から《七つ子》へ繋げる手の演奏ではない。古楽譜を確認すれば、《七つ子》へ繋げる手は表組の《浮世組》のままではなく、少し変化が見られ、その変化した手が秘伝の旋律であることが明らかである。従って、それを復原演奏して確かめてみることが、本研究において当初掲げた最も大きな研究目的であり意義なのである。三味線組歌全曲が現行する野川流の伝承でさえその手は伝わっていないため、柳川流の古楽譜に基づいてその手を復原することは、三味線組歌研究にとって大きな意味があると確信する。その他、《浮世組・七つ子》の五線譜化と、3年間の研究のまとめとして三味線組歌《七つ子》にまつわる諸問題の整理もしておかなければならないと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度はもともと復原曲の録音やそのデータ保存に必要な機器などの物品を購入しようと思っていたが、復原曲を演奏会等で披露することを考えれば、楽曲の復原作業と復原演奏披露のための練習が最優先であると考え直し、2名の研究協力者と復原の研究会の回数を重ねることと、演奏を披露する演奏会に向けての練習に時間と費用を費やした。復原曲の五線譜化作業における研究協力者への謝金は予定通り支出した。 前年度未使用額は、今年度こそ復原曲の演奏音源データや楽譜データを保存するのに必要な機器などの物品購入に充てたいと考えている。また、《浮世組・七つ子》をつなげて演奏するための復原楽譜も演奏発表用の家庭式楽譜にまとめて作成し、印刷製本するだけでなく、五線譜化も完了させてその作業に対する謝金を研究協力者に支払う予定である。更に最終年度として《浮世組・七つ子》の演奏を披露する演奏会の準備や開催に必要な費用にも充てられるように計画している。
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