研究課題/領域番号 |
22K00250
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研究機関 | 秋田公立美術大学 |
研究代表者 |
日野 沙耶 秋田公立美術大学, 美術学部, 助手 (00876245)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 日本画 / 日本絵画 / 戦後美術 / 現代絵画 / 岩絵具 / 絵画表現 / 技法材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、日本画を再検討するために、①近代以前の日本絵画、②近代以降の日本画、③現代絵画における岩絵具の使用法について調査を行う。2022年度は、特に①の調査を重点的に進めつつ、②③についても調査を進めた。以下に①~③の調査結果を述べる。 ①技法書および作品実見により岩絵具の使用法を調査した。技法書は、土佐派の『本朝画法大伝』、狩野派の『画筌』を取り上げた。調査から、両派は「描く対象に合った画材、色を用いる」、「下絵の真行草によって絵具の濃淡を変える」、「薄い彩色を佳しとする」という彩色観を前提としながら、岩絵具の色味や粗さの違いを使い分けて表現に活用していたこと、岩絵具が適さない表現では染料を使用するなど、色材を柔軟に使い分けていたことが明らかとなった。日本絵画における岩絵具の使用法の一例ではあるが、両派の使用法から、1つの色材に依拠することなく、それぞれの性質を理解し活用することが日本絵画の本質であることが示唆され、日本画を再検討する上で重要な手掛かりとなることが考えられる。 ②京都国立近代美術館、京都京セラ美術館の展覧会において作品の実見調査を行った。明治~大正期の日本画においては、従来の群青、緑青の岩絵具とは別の色調を呈した粗い岩絵具が、描画対象ごとではなく部分的に画中に散見された。戦後以降の日本画は、画面全体に岩絵具を使用する作例が多いことが分かった。戦後日本画においては、岩絵具の使用目的が色彩からマティエールへと変化した時期でもあるため、重点的に文献調査についても進めた。 ③国立新美術館の企画展「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」において、李禹煥の絵画作品の実見調査を行った。岩絵具を使用した作品は粗い粒子のものをたっぷりと使用しており、塗布部分に厚みや粒子感が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに進められ、近代以前の日本絵画における岩絵具の使用法について技法書および実見調査から明らかにすることができた。またその成果を論文化し、学術団体の雑誌へ投稿した。近代以降の日本画、現代絵画についても文献・実見調査を進めることができたが、明治~大正期の日本画については研究期間を踏まえると調査に時間を割くことが難しいため、岩絵具の使用法が顕著に変化した戦後の日本画の調査を重点的に行った。以上から、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、戦後日本画の美術団体であるパンリアル美術協会に着目して調査を行う予定である。パンリアル美術協会は、戦後に伝統的な日本画と決別するため、膠彩画として新しい表現を追求した美術団体である。本研究ではその中から星野眞吾の作品調査を中心に行う。星野眞吾はパンリアル美術協会の創立時のメンバーの一人で、和紙や胡粉、岩絵具といった日本画画材を用いながら、オプ・アート的な表現や和紙によるコラージュ表現を経て、「人拓」という表現を追求した。「人拓」とは、ビニール系の糊を手足に塗り和紙に写して、その上に岩絵具を撒いて人体を転写するという、星野が父の死をきっかけに生み出した表現である。従来の岩絵具の使用法とは大きく異なっており、同時代の日本画にも見られない表現である。「人拓」に岩絵具を使用した意図とその表現効果を読み解くことで、岩絵具の活用の可能性や材料による定義の可不可について追求できると考える。具体的な研究方法としては、美術雑誌等による作家の言説の調査と、美術館における作品の実見調査を行う。実見調査の際には、岩絵具の各番手による塗布試料および技法再現試料を制作し、それらと現物を照らし合わせて粗さや表現を考察する。さらに、岩絵具の使用箇所についてマクロ撮影等を行い、岩絵具の粗さや厚みの差について詳細に観察することで表現効果を考察する一助とする。また、現代絵画における岩絵具の使用法についても前年度に引き続き調査を行う。研究対象は李禹煥や現代作家による岩絵具を使用した作品とする。前年度の調査では、李禹煥は岩絵具の固着剤に膠だけでなく油も使用していたこと、その固着剤によって表現が異なっていることが明らかとなった。描画実験を行い、固着剤を変えることでどのような効果が得られるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費について予算計上時より安価に収まったために次年度使用額が生じた。2023年度は、実見調査の際に表現を考察するための描画試料を作成する予定である。試料作成に必要な岩絵具、和紙、膠等の消耗品費に使用する。
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