現在7人1人の子どもが貧困状態にあるという事実を踏まえ、また社会的包摂をテーマとする芸術活動の研究においては、子どもの貧困をテーマとする演劇活動が断片的にしか扱われていないことを問題視し、本研究では、日本における子どもの貧困をテーマとする演劇・劇場活動の全体像の把握を試みる。 初年度は、主に文献を通して貧困をテーマとする演劇・劇場活動について調査した。劇の上演についての調査では、例えば神奈川芸術劇場「暗いところやってくる」(作:前川知大、演出:小川絵里子、2012年初演)や、演劇集団Ring-Bong「さなぎになりたい子どもたち」(作:山谷典子、演出:藤井ごう、2022年初演)などが挙げられる。物語の主人公は子どもではなく、母親だが、二兎社「シングルマザーズ」(作・演出:永井愛、2011年初演)なども、子どもの貧困を扱っている演劇作品である。こうした作品は、ひとり親家庭の問題やヤングケアラーの問題が一緒に語られることが多く、子どもの貧困が、他の子どもを取り巻く社会問題と複雑に関連していることがわかる。 演劇ワークショップについての調査では、アーティストが子ども食堂などを訪問し、演劇ワークショップを提供する機会が増えている。その目的は、純粋に演劇に体験してみること、あるいは、子どもたちと一緒に楽しい時間を過ごすことだったり、コミュニケーション能力などの非認知能力の開発だったりする。 劇場についての調査では、兵庫県立尼崎青少年創造劇場の「わくわくステージ」や可児市文化創造センターの「私のあしながおじさんプロジェクト」など、劇場が地元の中高生を無料招待することにより、貧困家庭の子どもたちを含む、多くの子どもたちが、演劇にアクセスできる仕組みが存在している。
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