研究課題/領域番号 |
22K00268
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石原 孝二 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30291991)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Devereux / ethnic psychosis / エスニック・サイコーシス / ヤスパース / 民族精神医学 / ドゥヴルー / Jaspers |
研究実績の概要 |
本研究は精神疾患の知の枠組みに関する「領域多元主義」の特徴を明確化するとともに、領域多元主義が、当事者の知の組織化を制限しうるものであることを示すことを目的としている。また、領域多元主義に代わる相互作用モデルを構築することも本研究の目的である。2022年度は、論文「G.ドゥヴルー(Devereux)のエスニック・サイコーシスと相補性の概念:学際性と多元主義」を執筆・公刊した。本論文では、民族精神医学を基礎づけたドゥヴルー のエスニック・サイコーシスと「相補性」の概念を検討しながら、精神疾患に関する「領域多元主義」を特徴づけるとともに、そのような「領域的多元主義」の考え方が、ガミーによって「方法的多元主義」と呼ばれたヤスパースの精神病理学の方法にもみられることを指摘した。ドゥヴルーは当初「学際的な」(interdisciplinary)アプローチをとろうとしていたが、後に領域多元的(pluridisciplinary)なアプローチを標榜するようになる。領域多元的とは、人類学(社会学)と精神医学(精神分析)が同じ現象を対象としながら、それぞれの領域において完全な説明を与え、しかもそれぞれを必要とし、二重言説として機能するということを指している。上記論文では、ドゥヴルーの相補性や二重言説の概念が、それぞれの領域を独自の領域として確保する必要性にもとづいたものであった可能性を指摘するとともに、そのような要請を実現することが、ドゥヴルーのエスニック・サイコーシスに関する議論に即しても困難であることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標の一つとしていた、領域的多元主義をヤスパースやドゥヴルーの議論に即して特徴づけることは概ね達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
英国を中心に展開されている批判的精神医学やPTMF(Power, Threat, Meaning Framework)、人権モデルなど、従来の精神医療とは異なるメンタルヘルスの考え方を整理しながら、生物・心理・社会モデルの再検討を行う。また、「リカバリー」概念などを例にとり、領域的多元主義的な考え方が、当事者の知を制約するものとなる可能性について検討するとともに、現象学的精神病理学の歴史的評価も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、COVID-19の感染拡大が依然続いていたため、海外出張や海外の研究者の招へいが困難であった。2023年度は、海外から研究者の招へいを予定しており、招へい旅費などに使用する。
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