研究課題/領域番号 |
22K00280
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小島 智恵子 日本大学, 商学部, 教授 (70318319)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 科学技術史 / 原子力 / 技術者教育 / バックエンド / 廃止措置 |
研究実績の概要 |
初年次2022年度は, 日本のバックエンド技術教育の歴史を主な研究対象とし, 高等教育機関における原子力関連学科のカリキュラムの内容や卒業生の進路の変遷を調べた。その結果, 福島第一原発事故後に, 既存の文部科学省・経済産業省による原子力人材育成事業支援を受け, バックエンド教育に携わる高等教育機関が増加したことが明らかになった。そこで原子力人材育成事業補助金に採択された研究者にインタビューを行い, 福島第一原発事故後のバックエンド技術教育の現状を調査した。 1)文部科学省・経済産業省等の支援:文部科学省は経済産業省と連携し, 2007年に「原子力人材育成プログラム」を立ち上げ, 2010年には「国際原子力人材育成イニシアティブ」を創立し, 原子力人材育成支援を開始した。福島第一原発事故後は, 同事業の中に「復興対策特別人材育成事業」が設けられたが, 原子力ルネサンスの影響下で作られた同事業が, バックエンド技術教育支援の端緒となったと言える。その後2015年には, 「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」が開始され, その中に「課題解決型廃炉研究プログラム」が含まれた。なお, 2018年度新規採択分から, 同事業は段階的に日本原子力研究開発機構(JAEA)補助金事業へ移管され, 2020年度に移管が完了した。 2)原子力人材教育関係者へのインタビュー:JAEAバックエンド総括本部長代理, JAEA原子力人材育成センター長へのインタビューを実施し, 原子力人材育成推進事情がJAEAに移管された経緯などを明確にした。また政府の原子力人材育成事業に研究課題が採択されている北海道大学の小崎完教授と福島高専の鈴木茂和准教授へインタビューを行い, オープン教材の教育効果や高専での廃炉ロボット教育等についての詳細な情報を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究目的は,日本のバックエンド技術教育の歴史的変遷と現状を把握することであるが, 以下の調査結果を得たことでおおむね順調に進展していると判断した。 1)日本におけるバックエンド技術教育の歴史:1955年に原子力基本法が制定された後, 1972年頃までに, 旧帝大他, 計13の大学に原子力関係の学科・専攻が設置され, 3大学に原子力研究所が新設された。1972年には原子力関連の学部卒業生は年間500人となり, それ以降は横ばいとなった。1991年の大学設置基準改訂に伴い, 2004年には原子力を名乗る学科は1大学, 大学院は4大学院のみとなったが, 2005年から2010年にかけて原子力ルネサンスの影響を受け, 2大学が原子力の学科・専攻を復活させ, 1大学が原子力の学科を新設した。しかし, 2011年の福島第一原発事故後, 原子力関連学科に入学する学部生数は約100名に減少した。この間1990年代半ばから一部の大学でバックエンド教育が進展し,2010年までには講義も行われるようになった。福島第一原発事故後は, バックエンド教育の重要性が認識され, 政府の支援を受け, 高専を含む高等教育機関がバックエンド教育を展開するようになった。 2)バックエンド技術教育の事例: 【北海道大学】原子力関連のオープン教材を提供しているが, 国内唯一の深地層研究所である幌延の地下坑道のVR動画などの情報は特に有益である。バックエンドは分野が多岐にわたるため多機関で教材を共用することで, より専門的な教育を実施できる可能性がある。 【福島高専】2007年度以降, 政府の原子力人材育成プログラムに採択されたことを契機に, 原子力人材育成に力を入れるようになり, 福島第一原発事故後は,廃炉に関する総合的な知識を得られる廃炉創造学習プログラムを設け, また廃炉ロボコンにも積極的に参加している。
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今後の研究の推進方策 |
1) 2022年度の継続課題 本研究は, 放射性廃棄物の処理・処分などのバックエンド技術に関する教育の歴史的過程を調べ, その国際比較を行うものである。初年次2022年度は, 日本のバックエンド技術教育の歴史を研究対象とし, 福島第一原発事故後, 政府の原子力人材育成事業の支援によりバックエンド技術教育が進展したことを明らかにした。またバックエンド教育の実態を把握するために, 原子力人材育成事業に採択された機関の中で, 北海道大学と福島高専のバックエンド教育について調査し,インタビューを実施した。その他の教育機関については, 原子力人材育成事業の成果報告書等を精査した上で視察やインタビューが必要な機関を選択し, 2023年度以降も調査を継続する。 2) 2023年度以降の計画 2023年度は, フランスのバックエンド技術教育の歴史に重点を置く。まず資料を基にフランスのバックエンド技術教育の概略史を作成し, 福島原発事故がバックエンド教育の動機づけとなった日本と, 同事故が原子力政策に大きな影響を及ぼさなかったと言われているフランスのバックエンド教育の歴史を比較する。またINSTN(国立核科学技術研究所), I2EN(国際原子力学院)、MINES Paris Tech(パリ国立高等鉱業学校)を視察する。前者2機関では, 技術者に対して輸出産業としての原子力技術という観点でインタビューを実施し, MINES Paris Techでは、カリキュラムの内容や卒業生の進路の変遷を調査し, 学生に対してバックエンド技術を学ぶ動機や意義, 原子力産業におけるバックエンド事業の役割等についてのインタビューを実施する。なお, 2024年度はドイツのバックエンド技術教育の歴史を研究対象とし, 最終年次2025年度は,日仏独のバックエンド技術教育の歴史を比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用555,932円が生じた理由は, 2023年2月25日~3月6日に予定していたフランス出張が, 調査日程調整の都合上, キャンセルになったためである。 このフランス出張の主な目的は, フランス原子力庁アーカイブスにて, バックエンド技術者教育に関連する資料を収集することであった。これについては, 既に同アーカイブスに連絡を取り, 2023年6月1~15日のフランス滞在中に資料収集することに関して承諾を得ている。調べる資料は, フランス原子力庁によるバックエンド教育に関するものである。具体的には、原子力庁の年次報告書に記載されている教育関連の記事の中でも, バックエンド教育に関連するものを時系列に整理する。また, フランス原子力庁付属機関INSTN(国立核科学技術研究所)は, 1956年に設立されて以来, 半世紀以上にわたり技術者や研究者に対して核に関する先端分野の教育を行っている教育機関であるが, INSTNが出版した書籍やパンフレット等も同アーカイブスには所蔵されているので, それらを調査する予定である。なお現在, INSTNへの訪問とバックエンド技術者教育担当者へのインタビューを企画中であり, 6月のフランス滞在中に実施できる可能性もある。
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