研究課題/領域番号 |
22K00289
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
出口 智之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10580821)
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研究分担者 |
荒井 真理亜 相愛大学, 人文学部, 教授 (90612424)
新井 由美 奈良工業高等専門学校, 一般教科, 准教授 (40756722)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 口絵 / 挿絵 / 樋口一葉 / 『小天地』 / 『サンデー毎日』 / 新聞小説 / 泉鏡花 / 小村雪岱 |
研究実績の概要 |
本研究は、明治~昭和戦前期の日本近代を通じ、文学と口絵・挿絵がどのような関係にあったのかを通時的・総合的に明らかにするものである。 まず出口は、江戸期の戯作から明治後期にいたる口絵・挿絵の流れと、特徴的な作例の数々、また現在までの研究では解明できていない謎のままのこっている作例などをまとめ、書籍『明治文学の彩り 口絵・挿絵の世界』として刊行した。これは、令和4年1月~2月に日本近代文学館で行われた同題の展覧会の書籍化にあたり、展覧会時よりもさらに情報を増補して充実させたほか、別に新しく論考を寄せて研究を発展させた。また、樋口一葉「十三夜」の挿絵を例に取った論考と、様々な作例から明治期の口絵・挿絵に関する諸問題の所在を概説した論考を発表し、現在の研究水準を示すとともに、次なる問題の所在を明らかにして令和5年度以降の研究に備えている。 また荒井は、雑誌『小天地』や『サンデー毎日』(主として大正期)に掲載された挿絵についての調査研究を行った。これらは、従来所蔵が限られていて研究が進んでいなかったり、あるいは巻数の厖大さゆえに十分な研究が行われてこなかった媒体に焦点をあて、掲載された文学作品と視角表象との関係を考察したものである。 新井(杲)は、おもに大正~昭和戦前期において挿絵が演劇や映画へとつながった事例を取上げ、そのメディアミックス的状況の解明を試みた。特に、泉鏡花の作品が舞台化された際、挿絵画家の小村雪岱が示したイメージが伊藤熹朔によってどう取込まれ、小説と演劇を結ぶ鍵になっているかという点から、具体的な考察を行った。加えて、これまで研究が進んでおらず、その実状が解明されていなかった雑誌『藝術新聞』についての調査を行った。加えて、大正末期の『報知新聞』に掲載された絵入り小説の調査に着手し、令和5年度以降の研究を準備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始の初年度である令和4年度中に、すでに単著1点と論文(雑誌掲載/論集収録)3点、そのほか関連する文章や学会発表を10点以上公にし、研究の成果は当初の予想以上にあげられている。一方、信州大学が所蔵する石井鶴三宛て木村荘八書翰の調査・翻刻が、本研究の柱の一つであるが、これについては400通を超える書翰の翻字に予想外の時間を要している。しかし、令和4年度中に書翰全点についてすでに一応の翻字を終え、チェックの段階に入っており、令和5年度には一部でも発表できることが見込まれる。 以上より、全体としてはおおむね順調に進展していると言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
まず明治期を担当する出口については、雑誌『都の花』全109号の全挿絵の調査を終えており、これについての論文を発表する見込みが立っている。また、続いて明治期の『読売新聞』の絵入小説の調査にも着手しており、ひとまず8月の研究会で中間報告を予定している。 続いて大正期を担当する荒井は、『大阪毎日新聞』を中心に、柳川春葉や菊池幽芳の小説に鰭崎英朋が挿絵を描いた絵入り連載小説について調査・研究を進める。 大正末から昭和戦前期を担当する新井(杲)は、この時期の『報知新聞』における新聞連載小説のあり方を、令和4年度中の準備的調査を基点とし、同紙における挿絵の重要性に着目して多角的に調査・検討する。 また、三者全員で進めている石井鶴三宛木村荘八書翰の調査については、令和5年度末に全部もしくは一部の翻刻公開を目標とし、その準備を進める。 また、
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度中に刊行した出口智之『明治文学の彩り 口絵・挿絵の世界』について、続いて英語版を刊行すべく、翻訳者に依頼して翻訳作業に取りかかってもらった。この作業の謝金の一部を本研究費から支出する予定だったが、共編者の日本近代文学館より、この部分の謝金を負担したいとの申入れが令和5年1月下旬に届いたため、年度末の伝票執行締切りを控え、使用を次年度に回すことにした。 また、研究分担者の新井(杲)由美は、令和3年度までは大阪大学招へい研究員だったところ、令和4年度より奈良工業高等専門学校に異動した。これにかかり、大学から工業高専という大きな環境の変化にともなって、当初の見通しどおりに研究費を執行することが困難になったものである。 出口の次年度使用額については、令和4年3月下旬に、明治の絵師たちが描いた重要な肉筆資料の存在を古書店で偶然確認したため、令和5年度早々にこれを入手して研究にあてるべく、すでに処理を開始している。また新井(杲)については、赴任後1年を経て新任地の設備や勤務サイクル等が把握できたため、備品の手配や調査出張等を計画的に行い、消化する予定である。 なお、おなじく分担者の荒井にも3万円強の次年度使用額が出ているが、これは書籍等の手配のタイミングに由来する余剰であり、少額のため、令和5年度の研究計画を特段に変更することなく消化が可能である。
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