研究課題/領域番号 |
22K00305
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
蔡 毅 南山大学, 外国語学部, 研究員 (50263504)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 日本漢詩 / 日本漢文 / 日本漢文学 / 田桐 / 扶桑詩話 / 幕末志士 / 添削 |
研究実績の概要 |
著書『清代における日本漢文学の受容』(「南山大学学術叢書」、2022年3月、398頁、汲古書院)の補完として、清末に来日の田桐が著した『扶桑詩話』について検討した。 詩話は古人が詩作を論じ、詩人の事跡を記録する基本的な様式であるが、多くは随筆や札記の形をとり、体系的に整えられてはいない。宋代の欧陽修『六一詩話』に始まり、中国における歴代の詩話は夥しい数にのぼる。清末以降、日本漢詩に言及する詩話もまた陸続と出現した。しかし筆者の知る限り、中国の詩話で書名に「日本」或いは日本の別称を冠するもので、正式に出版されているものは僅かに二つしかない。一つは聶景孺の『桜花館日本詩話』、もう一つは田桐の『扶桑詩話』である。聶景孺の著作については、筆者は別稿にて考察する。田桐の著作については、日本には専門に論じたものは無い。中国大陸では陳春香の専著および宋紅玉の論文に章を設けて検討されており、また台湾の林香伶の論文中にも言及されているが、これらの論述はこの書の内容に対する表層的な評論に留まっていたり、或いはこの書と清末の詩人達の結社との関聯に偏っていたりして、その文献の由来について実証的に追究したものは無く、日本漢詩そのものに対する理解もかなり表面的である。こうした状況に鑑み、田桐『扶桑詩話』の編纂方法および構成の特色について詳細な検討を行い、その日中の漢詩交流史における独特の地位を垣間見ることとした。論文は「中国文人が見た日本漢詩―田桐『扶桑詩話』について―」(査読付き)、『東アジア比較文化研究』第22号、東アジア比較文化国際会議日本支部、45-59頁、校正済み、2023年6月刊行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の論文が公刊されたほか、清代末期部分の資料調査もほぼ完了で、これからは清代以前の部分に全力をあげて検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
前述の聶景孺『桜花館日本詩話』についての資料調査はほぼ終了し、今は論文にまとめているところである。次は胡懐ちん(王+深の右)『海天詩話』、袁祖光『緑天香雪い(竹+移)詩話』所収の日本漢詩を検討し、これで清代部分を一段落とする。それからは歴史をさかのぼって、唐代及び宋代における日本漢文学の受容についての今までの研究成果に基づき、さらに新しい検索手段を利用して新しい資料を加え、唐宋の部分を充実していく。来年度は元代、特に日本漢文学作品の著録がもっとも多い明代に重点をおき、全面的に検討していく。なお、国際的学術交流の再開によって、積極的に国内および中国・台湾で開催される関連学会に出席して論文発表をし、それによってこのテーマについての関心を広め、且つ関係分野の学者から教示を得たいと思う。学会発表後いずれも日本語と中国語で論文にまとめ、両国の学術誌に投稿する。最終的に拙著『清代における日本漢文学の受容』に今回の研究成果を加えた増訂本『中国における日本漢文学の受容』(文字数はおよそ倍増になると予想される)を出すと同時に、中国語版の同著書『日本漢文学在中国』も完成させることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって出張はほとんどできなかったが、今後は国内資料調査のみならず、国際学会にも参加するため、旅費が必要である。また、データ管理のため、デスクトップパソコンを購入する予定である。
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