研究課題/領域番号 |
22K00315
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
尾西 康充 三重大学, 人文学部, 教授 (70274032)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 野間宏 / 戦後文学 |
研究実績の概要 |
設定した研究テーマについて、関係資料を調査収集した結果、論文「野間宏研究序説―「暗い絵」「崩解感覚」「真空地帯」」(「三重大学日本語学文学」第33号、2022年6月)および「野間宏と地域人民闘争 : 雑誌「人民文学」と一九五〇年代」(「広島大学近代文学試論」第60号、2022年12月)を発表した。 日中戦争から敗戦後までの日本社会を知識人層の青年の視点から描き出したのが野間宏の文学である。言論の自由が制限され、共産主義思想が治安当局による弾圧の対象になった時代、大学生の間に治安維持法の犠牲者が多数出た。ある者は獄死し、ある者は転向して生き延びた。その痛ましい体験をもとにして、野間は数々の小説を創作した。野間の小説に共通する特徴は、歴史の客観的必然性に従って革命運動が昂揚して最後にプロレタリア革命が成就するという発展史観ではなく、一連の運動のなかで犠牲になった人びとの「名もなき無意味な痕跡だけを残すすべてのものの視点」に立脚していることにあるのを明らかにした。 日中戦争勃発前後の左翼学生運動を作品のテーマにした「暗い絵」(一九四六年)は、非合法運動にかかわって獄死する学生たちの姿がきわめて印象的に描き出される。主人公の深見進介は、友人の死を悼みながらも転向して釈放され、軍需会社に就職して戦後まで生き延びる。大阪大空襲で焼失したブリューゲルの画集に青春時代の記憶を重ねながら、全国の高等学校を追放されたり、処分を食らったりした者たちが京都帝国大学に集まって、京大事件以来消え去ろうとしていた左翼勢力が勢いを取り戻した時代―《暗い花ざかり》―の目撃者として、思想弾圧によって断ち切られた友人たちの短い生命の輝きを語りつぐのであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内の資料の調査収集は順調に進んでいる。ただしコロナ感染症の流行のため、外国出張はできなかったので、次年度以降、計画している。
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今後の研究の推進方策 |
すでに収集した国内資料に加えて、次年度以降の外国出張によって、新たに資料を調査収集することによって、総合的な観点から野間宏の文学をとらえ、新たな論文を作成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症の流行のため、今年度は外国出張ができなかった。外国出張は次年度に繰り越して実施する予定である。
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