研究課題/領域番号 |
22K00366
|
研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
林 香奈 京都府立大学, 文学部, 教授 (30272933)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 日本雑事詩 / 黄遵憲 / 明治漢詩人 / 養浩堂詩集 / 日本国志 |
研究実績の概要 |
黄遵憲『日本雑事詩』定本200首のうち、農業・物産・伝統工芸についての見聞を記した第186~195首を中心に、原本・『日本国志』と比較しながら、詩および自注についての詳細な注釈と訳文の作成を行った。その成果は「黄遵憲「日本雑事詩」訳注稿(二十六)」と題して学術雑誌に公表した。 『日本雑事詩』自注には、江戸の学者村瀬栲亭の『藝苑日渉』にもとづく記述が多いことが指摘されている。該書のような蔵書目録所収書は記述の根拠としたことを確定しやすいが、その他の記述は、黄遵憲が実際に何にもとづいたかを一つ一つ確認するほかない。今回の調査では、明治7年刊の津田仙『農業三事』を目睹していたこと、また詩の典故とする魏晋の楽府古辞が『楽府詩集』に収載されない作であることから、『古詩紀』もしくは蔵書目録所収の『古詩源』に拠った可能性が高いこと、自注や『日本国志』には『格致鏡原』に収載されている書物をそのまま引用する場合が多いことなどが、資料を精査することによって明らかとなった。 『日本雑事詩』諸本のうち、今年度は定本と同文館聚珍版(官本)との校勘を行う予定であったが、官本には更なる調査が必要となったため、令和5年度に予定していた梧州本との校勘を行った。 また日本漢詩文集に対する黄遵憲ら清末文人の序跋や評語については、郭真義・鄭海麟『黄遵憲題批日人漢籍』にまとめられているが、改めて宮島誠一郎『養浩堂詩集』五巻の評語について早稲田大学所蔵資料により調査し、遺漏や異同等を確認した。宮島ら日本漢詩人の詩に対する評語の持つ意味については現在考察を継続中であるが、中国古典詩の中でも特に古詩の学習を重視する黄遵憲の詩観が基本的に反映されており、日本漢詩に関する『日本雑事詩』における原本から定本への書き換えにも通ずる点があることが確認された。同時に漢魏六朝の詩歌についても黄遵憲の評語に留意しながら検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『日本雑事詩』の諸本の校勘については、官本の更なる調査のために中国国家図書館所蔵本等の再確認が必要となったものの、コロナ禍により調査が遅れている。令和5年度に計画していた梧州本によりまずは調査を行うことで対応した。 定本の詩と自注は計画どおりに注釈と訳文を作成し公表した。 明治の漢詩人たちに対する黄遵憲ら清末文人の詩評を『養浩堂詩集』を中心に抽出し、新たな知見を得たが、今後さらにその問題を掘り下げて考察をすすめる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
『日本雑事詩』定本196~200首を対象に、継続して原本や『日本国志』との比較と詳細な注釈、訳文の作成を行うとともに、黄遵憲が基づいた資料の検証につとめる。また資料の選択や詩および自注の叙述方法と、日本の文人との交流がどのように関わっているかについても考える。 併せて『日本雑事詩』の官本に関する調査を継続して進める。原本から定本への書き換えの意図と諸本間の異同を確認するために、定本と王韜本、訓点本との校勘を行う。 また宮島誠一郎『養浩堂詩集』や、他の日本漢詩文集の序跋や評語を継続して調査し、黄遵憲が日本漢詩人に特に伝授した古典詩観や他の清末文人との違い、日本漢詩人の受容の様相をさらに掘り下げて考察する。併せて黄遵憲らが『日本雑事詩』や評語、筆記資料等で言及した日本の漢詩を検討することにより、中国古典詩との関わりを考察し、黄遵憲、さらには日中双方の文人たちにとっての旧詩の位置づけを考察する。
|