研究課題/領域番号 |
22K00374
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
辻 照彦 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (30197678)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オセロー / 第一・四つ折り本 / 第一・二つ折り本 / Folio-only passage |
研究実績の概要 |
デズデモーナが殺害される直前の重要な場面である『オセロー』の4幕3場には、第一・四つ折り本からは欠落しており、第一・二つ折り本だけに見られるFolio-only passageが合計で48行も存在する。これらのパッセージは、現在多くの研究者によって、第一・四つ折り本の原稿から欠落したものと考えられているが、その理由としては、歌の上手なデズデモーナ役の少年が見つからなかったといった上演時の都合が指摘されてきた。研究代表者は、歌それ自体に問題があったのではないかという視点からこの問題の解決を試みた。 研究代表者は「柳の歌」と古いバラード、具体的には、トマス・パーシーの Reliques of Ancient English Poetry (1765)に収められた‘A Lover’s Complaint, being forsaken of his love. To a pleasant tune’というバラードをスタンザごとに比較分析した。その結果、「柳の歌」の第1スタンザと第2スタンザに関する限り、シェイクスピアは古いバラードを比較的忠実にコピーしていることが分かった。それに対して、「柳の歌」の最終スタンザである第3スタンザには古いバラードの影響はまったく見られなかった。「柳の歌」の最終スタンザは、古いバラードの曲調からはかけ離れた、辛辣な毒舌を含む点が最大の特徴になっている。 研究代表者は、前年の研究により、第一・四つ折り本の4幕と5幕では、喜劇に転落しかねないコミカルな要素が削除されていることを明らかにした。これらの全体的傾向の中に「柳の歌」を置いて考えたとき、第一・四つ折り本の編集に責任のあった人物が、悲劇の終盤でそのヒロインが有名な歌のパロディーを口ずさむシーンを不適切と考えて、バラード全体を削除することは十分考えられると結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『オセロー』のFolio-only passageの中で最も重要な箇所の一つである「柳の歌」の分析を進めることができたことで、Folio-only passageが第一・四つ折り本の印刷過程で削除された理由を解明するという最終目標に向けて一歩前進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、前年度に得られた成果をもとにして、『オセロー』のFolio-only passageの中でもひときわ長いFolio-only passageである4幕3場最後のエミリアの台詞を中心に分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、購入を予定していた研究書の刊行と一部備品の入荷が遅れたことが原因である。正常化を待って、速やかに購入する予定である。
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