研究課題/領域番号 |
22K00375
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 冒険物語 / モダニズム / Robert Louis Stevenson / 旅行記 |
研究実績の概要 |
計画書の通り、Stevenson の作品の再検証を本研究の出発点とした。作品の再読において注目したのは、彼の生涯に通底する「旅への渇望感」である。伝記的側面からは、病弱な身体を癒すための幼い頃からの転地療養、青年時代のフランスへの旅、アメリカへの移住、太平洋航海と、健康上の理由に強いられつつも、そこには旅への渇望感を満たす姿が浮かび上がる。他方、彼が残した様々な作品も、旅という概念によって繋ぎ合わせることが可能になる。数多くの旅行記はもちろんのこと、物語に目を向けると、彼が得意とした冒険物語はまさに旅のメタファーの産物とみなせる。遠く離れた海を舞台にした "Treasure Island" や "Kidnapped" といった作品群は言うまでもなく、"Dr Jekyll and Mr Hyde" や "New Arabian Nights " も都市の暗部への旅という比喩が多用されており、"Edinburgh Picturesque Notes" の描出方法との類似を見出すことができる。小編 "Markheim" もそうした都市型冒険物語の一つであるが、本研究において重要な意味を持つのはその描写方法である。鏡像を多用した主人公の描写は後継作品とみなされる "Jekyll and Hyde" よりも遥かに実験的であり、モダニズムのそれに近い。本研究は太平洋表象に焦点を当てるため、本作品は直接的な研究対象にはなりえない懸念もあったが、物語で示唆される新しい文体への作者の高い関心は、その後の物語における表象方法の実験度合いを測る重要な指標となることを確認できた。本年度得た Stevenson の作品群における大衆性と芸術性との偏差の知見を、次年度においては彼に先行する Melville、Ballantyne たちの太平洋冒険小説群の考察に活用する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍が長引き航空機の減便が続き、オーストラリア地域での資料調査が当初の予定通りに進まなかったため研究状況に若干の遅延が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は Stevenson に先行する Melville、Ballantyne、Kingston、Stoddard の太平洋冒険小説群を考察する。とりわけMelville の太平洋物語は、彼自身のポリネシアの習慣についての詳細な観察によって現実性が付与されており、その後に続く同様の物語の祖型にもなっているため、 John Williams や William Ellis などの宣教師が残した記録を参照しながら、作品の虚構と現実との関係を検証する。また、Ballantyne や Kingston の少年向け作品の読解には、大英帝国の拡張と民衆教育も重要な参照要素になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の営業で海外渡航便の減少によりスケジュールの調整ができなかったため、旅費に大幅な残額が生じた。その一方で渡航費の高騰により、当初予定した金額では不足が生じた。
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