研究実績の概要 |
二年目となる令和5年度は、古英語期の英国における作者不詳の聖人伝作品群について、関連資料を収集し、写本、既存の刊本(diplomatic editionの有無)、ラテン語原典に関する最新の情報等が盛り込んだカタログ・データベースの編集および作成を実施するなど、前年度から行ってきた課題研究の基盤整備を継続して行った。これは、女性聖人伝における古英語作家たちの女性性の扱い方に焦点を当て、ヨーロッパ大陸に由来する女性像が英国内でどのように受容され、独自の変容を遂げていったのかを、ジェンダー視点から分析するための基礎資料となるものである。 その作業と並行して、昨年度までに作成したデータベースを利用し、作者不詳の聖人伝の中から、特に女性聖人を扱った作品を抽出し(具体的には、Saint Mary of Egypt, Cotton MS Julius E. vii, ff. 122v-136r, British Library)、当該作品について原写本の現地調査を実施した上で、新たな電子テキストを編纂する作業にも着手した。 加えて、このテキスト編纂作業の過程で明らかとなった、既存のテキスト(Skeat, 1881-1900 および Magennis, 2002)との相違点や、それに対する修正提案等のリストを作成して、次年度以降の論文作成のための準備も進めている。 その一方で、昨年、大英図書館に対して行われた大規模サイバー攻撃の影響で、現在も関連資料の閲覧制限が続いていることから、当初に予定していた計画に遅れが生じる結果となっている。
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