• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

中世英文学における「移動」と自己形成

研究課題

研究課題/領域番号 22K00391
研究機関同志社大学

研究代表者

大沼 由布  同志社大学, 文学部, 教授 (10546667)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2027-03-31
キーワード中世英文学 / 他者表象 / 自己認識 / 移動 / 比較文学 / 西洋中世
研究実績の概要

本研究は、中世英文学において「移動」の概念がいかに描写され、そこにいかなる思想が表現され、それがどのように中世人の様々なレベルでの自己の認識を形作っていったかを分析するものである。「移動」の概念を、旅行記のような物理的移動だけでなく、百科事典のような古典古代からの情報の再編纂による知識の移動、地図や写本の挿絵による情報伝達媒体の移動、翻訳・翻案による言語の移動といった面から探求し、そこにまつわる精神や思想の移動を、国家意識、世界観を含む自己認識を中心に読み解き、中世人のアイデンティティ形成に「移動」がどのように貢献したかを研究する。
本年は、二つの研究発表を中心に研究成果をまとめた。
まず、5月に日本英文学会のシンポジウムで発表を行った。ここでは、7世紀後期から8世紀初期にアイルランド人またはアングロ・サクソン人により書かれたとされるラテン語作品であるLiber monstrorum(『怪物の書』)と呼ばれる作品を取り上げ、そこでの怪物の描写や定義づけを分析することにより、人間と怪物との境界について考えた。それにより、Liber monstrorumが中世人の自己規定にどのようにかかわっていたかを明らかにした。またシンポジウム全体でも怪物と人間という問題は一つのテーマとしており、他発表とあわせることで、中世人のアイデンティティについてのより広い知見を得ることもできた。
次に、10月に同志社大学の提携するフランスのEcole des hautes etudes en sciences sociales(社会科学高等研究院)との合同セミナーにおいて、本プロジェクトの概要を紹介した。西洋中世の知識、媒体、言語などの流動性がどのように自己形成とかかわりうるかを中心に取り上げ、今後の研究の発展に向けて、質疑応答や情報交換を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

物理的移動が精神に与える影響についてを中心に、知識・情報の移動や媒体の移動についての一部を取り上げる予定にしていた。多少の取りこぼしはあったものの、計画していた題材に基本的には触れることができたと言える。また、本研究課題の根幹としている中世人のアイデンティティ形成という問題について、多角的な視点からの情報を得ることもでき、国際的な人脈も広がった。
進捗上の問題点として、9月入稿を目指していた国際論文集に寄稿する原稿の完成が遅れていることが挙げられる。とはいえ、出版には間に合う範囲であり、完成まであと一歩という所まで来ているため、研究全体の進捗に影響するレベルではないと判断し、総合して、上記のような進捗区分とした。また、2024年9月より一年間、在外研究の機会を得たため、多少の遅れがあってもそこで取り戻せると考えられる。

今後の研究の推進方策

研究全体としては、中世英文学における移動の概念を物理的移動、知識・情報の移動、媒体の移動の3点において分析し、集大成として、精神・思想の移動としての、中世人の自己認識の形成を明らかにすることを目的としている。
研究3年目にあたる2024年度は、物理的移動について、昨年度取りこぼした部分を補完するとともに、媒体の移動を中心に研究を進める。媒体の移動の中でも、言語の移動と文字から視覚への移動という点に注目する。具体的には、8月までは、一作品が複数言語に翻訳・翻案される例の分析を主眼とする。これは同時に、知識・情報の移動の一例ともなる。9月以降は、イギリスでの在外研究を開始するため、日本国内からはアクセスしにくい、写本などに見られる挿絵や地図での世界観の表現等を中心に研究する。
具体的に現段階で計画・実施しているものとして、7月にイギリスで開催される国際学会において、旅行記と言語移動についての研究発表を行い、媒体の移動について研究する予定で、現在準備中である。また、9月刊行の学術雑誌掲載の百科事典と知識・情報の移動についての書評が採択決定となっており、完成原稿を提出して校正待ちである。それらに加え、進捗状況についての項でもふれたように、2022年6月に行った国際学会での口頭発表に基づき、国際論文集への寄稿原稿も執筆中である。

次年度使用額が生じた理由

2022年度からの繰り越し金があったため、次年度使用額が生じた。2024年度は移動が多く、機器の購入なども必要なため、旅費や消耗品費に使用する予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2023 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [国際共同研究] 社会科学高等研究院(EHESS)(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      社会科学高等研究院(EHESS)
  • [学会発表] 「Liber monstrorumにおける怪物たち」2023

    • 著者名/発表者名
      大沼由布
    • 学会等名
      日本英文学会第95回全国大会シンポジウム「怪物と中世英文学」
    • 招待講演
  • [学会発表] “Mobility and Identity in Medieval European Literature”2023

    • 著者名/発表者名
      Yu Onuma
    • 学会等名
      Doshisha University―EHESS Meeting & Seminar
    • 国際学会

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi