研究課題/領域番号 |
22K00405
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
吉田 要 日本工業大学, 共通教育学群, 准教授 (80705244)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 農業 / 牧草地 / 納屋 / 労働 / 場所 / エミリィ・ディキンスン / 19世紀女性詩人 / アメリカ詩 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀のアメリカ合衆国マサチューセッツ州出身の女性詩人たちが書いた詩作品に見られる農業や土地、場所の表象に注目するものである。初年度は特にエミリィ・ディキンスンの詩において牧草が刈り取られたり、納屋へ貯蔵されたりする様子が描き込まれている詩に焦点を当て、その背後に見え隠れする作業や労働者たちに着目した。詩の語り手は直接には作業に従事していないことが多い。つまり、語り手とは別の人物が牧草を刈り取り、納屋に貯蔵する作業を担っていることが各詩作品から読み取れる。ディキンスン家には住み込みや一時雇いで労働に従事していた人々がおり、ディキンスンは彼らと日常的にコミュニケーションをとっていたことが書簡文からうかがえる。これらのことから、語り手、ひるがえって詩人自身は農業に従事していなくとも、農業が詩を生み出す源泉として機能していたと言える。以上の研究成果は2023年6月に開催される日本エミリィ・ディキンスン学会第37回年次大会におけるシンポジアムで発表される予定である。 その他、本研究と間接的に関連のある成果として、日本アメリカ文学会東京支部2022年6月例会における「“Each Age a Lens”――「円周」を拡げるエミリィ・ディキンスン」と題したシンポジアムがある。私はこのシンポを企画し、司会と発表「イマジストとしてのディキンスン――エイミー・ローウェルによるディキンスン受容を中心に」を担った。この発表においては、ディキンスンの詩における自然描写を取り上げた。また、本年は同学会東京支部の学会誌『アメリカ文学』にディキンスンに関する別の論文を投稿して査読を通過した。その論文が掲載された学会誌は2023年6月に発行される見通しである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は(1)女性詩人たちの第一次文献、ならびに環境文学や農業、同時代のアメリカ文学に関連する研究図書や資料を収集できた。2年目も必要文献や資料の収集を続ける。 (2)ディキンスンに関しては使用人たちに関係する詩や書簡文を抽出し、情報の整理もできつつある。研究の進み具合としては概ね良好であると言える。あとはそれに、当時の労働者たちの社会的状況を補強材料として付け足したい。ほかの明るい材料としては、農具や暦といった農業と切っても切り離せないもの、また、鍛冶や林業といった農業の隣接分野などへ研究の射程が広がる兆しを見せている点である。農業をより俯瞰的に捉える観点が見つかったと言える。その一方、ディキンスン以外の女性詩人が書いた作品へのアプローチは部分的にしか進んでいないため、2年目は促進を図る。 (3)現地でのみ閲覧・複写が可能な資料を入手するため、コロナの状況次第では渡航することも選択肢に入れていたが、2年目に延期することとなった。国際エミリィ・ディキンスン学会への参加もオンラインとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2年目(2023年度)は、(1)初年度に引き続き、基礎文献と各研究書、インターネットアーカイブの調査を継続する。特に、ディキンスンの比較対象となるヘレン・ハント・ジャクスン、ルーシー・ラーコム、マリア・ホワイト・ローウェルらの作品と関連資料を読み込む予定である。 (2)夏季休暇中か春季休暇中に、図書館を通じてのみしか閲覧・複写できない資料の現地調査を行う。ディキンスンの地元で発行された新聞や関連資料の調査はマサチューセッツ州のJohns Library、Amherst College、Harvard Universityなどで行う。 (3)これまでの研究で明らかになった研究内容を学会や研究会などで公表して、フィードバックを得る。それに基づき、研究内容に見直しをかける。具体的には、日本エミリィ・ディキンスン学会第37回年次大会のシンポジアムで、ディキンスン家で働いていた労働者たちと農業との関係性について発表することが決まっている。また、その発表原稿を学術論文として整え、同学会の学会誌『Emily Dickinson Review』に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの蔓延および感染防止対策状況に照らし、初年度は海外渡航を自粛し、現地での資料収集と国際学会への現地参加を断念した(国際学会にはオンラインで参加した)。2年目は夏季休暇中か春季休暇中に渡航し、現地でのみしか触れることのできない資料の調査にあたる予定である。
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