研究課題/領域番号 |
22K00406
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 亨 青山学院大学, 経営学部, 教授 (40245337)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | アイルランド / 英国 / 北アイルランド / ブレグジット / EU / 紛争 / ナショナリズム / ユニオニズム |
研究実績の概要 |
2022年度は論文では「1922年秋、ケインズは『荒地』を朗読した」を『四月はいちばん残酷な月――T.S.エリオット『荒地』100周年記念論集』(水声社)に、「植民地と故郷――清岡卓行、三木卓、後藤明生(後半2)」を『青山経営論集』第57号別冊に、「『そこに宿る ジプシーの魂が』――ポーラ・ミーハンと出会う」を『現代詩手帖』(2023年2月号)に発表した。つぎに口頭発表であるが、日本T.S.エリオット協会第34回年次大会(於佛教大学)にて、シンポジウム「彼岸と此岸をつなぐもの――『荒地』100周年目のテクスト・コンテクスト」で「『荒地』と写真」を、日本アイルランド協会第29回年次大会のシンポジウム「アイルランドと殉教」で「北アイルランドと殉教」を発表した。 本研究は2017年以来の課題「ポスト紛争とブレグジットの時代における北アイルランドの詩的想像力の諸相」を引き継ぎ、さらに展開、発展させるものである。研究方法としては現地調査を踏まえながら、とくに街頭のミューラルや詩作品を分析することである。 本年度もベルファストとデリーを中心に現地調査を行った。ミューラルの多くは政治性に富んだものが多いが、今年はコロナ禍を反映したものなどもあり、つくづくミューラルは時代の鏡であると実感した。そして、現地調査をとおし、詩人のキアラン・カーソン研究の重要性を再認識できた。 また、2023年度出版に向けて、日本の作家にとっての植民地体験と引き揚げについての論文を書くことができた。これは北アイルランドないしアイルランドが有する植民地の問題により広い視野を与えることになる。また、アイルランドの殉教をテーマとするシンポジウムへの参加が機縁となり、文学、歴史、美学を専攻する研究者が学問領域を越えてグループを結成し、その一員となった。今後の活動が楽しみである。以上、実りの多い一年目となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
わたしの研究方法はまず北アイルランドの現状把握が第一であり、これはニュースなどの報道はもちろんのこと、現地調査が不可欠である。とくにミューラルは政治状況に応じて変化するので現地調査抜きには研究できない。その点、今年度は現地調査を行うことができ、当地で多くのミューラルを記録し、その後、分析できた。 つぎに2023年度出版予定の論文集に収録する予定の論考(「植民地と故郷――清岡卓行、三木卓、後藤明生(後半2)」)を発表することができた点が挙げられる。これは2004年に出版した『異邦のふるさと「アイルランド」』に次ぐ著作で、アイルランドならびに北アイルランドの問題をより広い視野で、また、ときに、別な視点から扱うものであり、わたしが長年行っている北アイルランドに特化した研究の足りない部分を補足するものでもある。 そして、殉教というテーマをもとに、ジャンルを越えた研究グループが結成され、その一員に加わることができた点が挙げられる。現在、学術書の出版を目標に、オンラインやメールで会合をくりかえしている。文学だけではなく、歴史、美学というさまざまなジャンルのアイルランド研究者と意見を交換し、学際的研究ができる環境をえた。有益な助言も数多く得ることができ、研究の質がいっそう向上する。 以上の点から、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はキアラン・カーソンの詩と詩論の研究を進めたい。カーソンはベルファスト生まれで、ベルファストを題材にした詩を多く書いた詩人である。彼の詩を通してみたベルファストは、紛争直下のベルファストであり、ポスト紛争の時代のベルファストとは違うが、むしろ現代との違いを通して、ベルファストが再認識されよう。 また、2023年度を含め、数年間で、カーソンと同時に、やはりベルファスト出身のジャーナリスト、マラキ・オドハティの紛争時代の回想録、ならびに、紛争そのものを扱った書を読みたい。第一級のジャーナリストのベルファスト論といってもいい2著(『The Troubles with Guns』と『The Telling Year Belfast 1972』)は、自身紛争の烈しかった地区に生まれ育ったオドハティの手になるものであり、単なる解説書とは異なるリアリティと説得力があり、それがポスト紛争ばかりではく、ポストブレグジットの北アイルランドを解読するのに役立つと確信する。現地を訪れ、調査も行いながら、熟読したい。 そして、ミューラル研究の第一人者、ビル・ロールストンの『Drawing Support 5』を丹念に読みたい。同時に、現地調査をくりかえすのが、地道ながら研究の目標を達成する近道である。『北アイルランドとミューラル』を2010年に上梓したが、ミューラルに関する新たな研究書を出版する予定であるので、それを視野に入れながら、現地調査と研究を重ねるつもりである。ミューラル研究については本年度はその一部となる論考を書き、次年度以降も、現地調査を重ねながら書きつづけていく予定である。
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