研究課題/領域番号 |
22K00406
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 亨 青山学院大学, 経営学部, 教授 (40245337)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 北アイルランド紛争 / 紛争後 / ブレグジット / ブレグジット後 / ナショナリズム / ユニオニズム / 帰属問題 / 和平 |
研究実績の概要 |
2023年度は論文一本(「『荒地』と写真」)を書き、発表は広島・アイルランド交流会(第24回例会)で講演(「北アイルランドを考える――ミューラルを手がかりとして」)を行った。また、2024年3月にはベルファストにて、おもにミューラルの変遷をテーマに現地調査を行った。 「『荒地』と写真」はT.S.エリオットの代表作『荒地』と、19世紀半ばに発明され、それ以降急速に普及したカメラ・写真との関係を論じた。その意味において、研究課題と直接な関わりはない。しかし、研究課題である「詩的想像力」の対象には北アイルランド詩も含まれる。また、程度の差こそあれ、T.S.エリオットに影響を受けていない北アイルランド詩人はいないので、研究課題と間接的な関係を結ぶ。 講演はミューラルとは何か、いつ発生し、いかに発展・変遷したかを北アイルランドの政治、歴史、社会との関わりから述べた。本発表と現地調査は、今年度執筆予定の「北アイルランドのミューラル文化」(『長い20世紀の文化研究』所収予定、小鳥遊書房)につながるものである。本論ではミューラル文化の起源と変遷はもちろん、現状に注目して書くつもりである。 つぎに現地調査(ベルファスト)である。この一年の世界情勢の変化はめまぐるしい。なかでもイスラエルのガザ侵攻は特筆されるべきである。北アイルランドの住民はこの侵攻をめぐり、真っ二つに、しかも宗派別に態度が分かれている。すなわち、プロテスタント系住民は英国を後ろ盾にするゆえ、また、同じ入植者という立場からイスラエルを支持し、カトリック系住民は、先住者という立場からガザ(パレスチナ)を支持している。今回の調査では、その事実を数々のミューラルを通して確認できた。 最後に、現在進めている翻訳についてである。パトリック・カヴァナ『グリーン・フール』翻訳の第一稿が出来上がった。2024年度中の出版を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は例年に比べ、形になったものこそ少ないが、研究と業績はかならずしも年単位で区切られるわけではない。総括すると本年度は次年度以降の研究と成果につながる一年だったとと言える。 まず、20244年3月の現地調査は本年度に書く論文(「北アイルランドのミューラル文化」)にその成果が反映される。また、T.S.エリオットの論文執筆は2024年4月のオンライン研究会(日本T.S.エリオット協会主催)における「T.S.エリオットの詩学」という発表につながり、さらに、この発表は本年度執筆予定(2025年度出版予定)の『T.S.エリオット』(水声社)に結実する予定である。 そして、この数年取り組んできた、北アイルランド現代詩人に多大な影響を及ぼしたパトリック・カヴァナの『グリーン・フール』の翻訳が終わりを迎え、本年度出版の運びとなる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は『アイルランドから東北へ』(新評論)という単著を出版する予定である。これはこの数年にわたって書いてきた論文を改稿し、一冊にまとめたものである。科研の課題をも視野に入れたものである。そして、前述したように、20世紀の代表的現代詩人で北アイルランド詩人に多大な影響を与えたT.S.エリオットについての単著を執筆する。さらには、北アイルランドのミューラル文化についての論文を執筆する。そして、これは年内に成果は出ないが、北アイルランド詩人、シェイマス・ヒーニーに関する単著の執筆も計画している。また、ミューラルの現地調査を毎年行い、ポスト紛争、ポストブレグジットという局面だけではなく、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻など、ますます混迷を深める現代世界における北アイルランドンの動向と行方を注視したい。
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