研究課題/領域番号 |
22K00409
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
藤倉 ひとみ 順天堂大学, 医療看護学部, 助教 (80814201)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / クィア / 20世紀 |
研究実績の概要 |
今年度は研究計画の2項目にあたる「クィアの開花―1940年代」で取り上げる作家のうち、Gore VidalのThe City and the Pillarの文献調査を行い、日本アメリカ文学会東北支部3月例会にて研究発表を行った。本作はアメリカ文学史上初めて同性愛を肯定的に扱った作品として注目されるが、同性愛についての単なるカミングアウト作品ではなく文学的価値が見出せることを分析し、作品の主題を考察した。それまでのクィア文学の伝統としてあった「潜ませて書く」ということを覆し、ゲイ業界の事情を明るみにし、クィア性の可視化を果たすという斬新さを見せていた。男性同士の性描写、ホモエロティシズムの露呈はアメリカ国内では酷評されたのだが、海外のゲイ作家たちは本作を支持し、評価したことを明らかにした。主題の考察としては、同性愛を「肯定的」に扱っているとする具体的な表現から、同性愛の性質を分析した。主人公の親友にだけ寄せる愛については作中の表現だけでなく、作者Vidal自身が古代ギリシアで「天上愛」とされた同性愛に憧れていたことからもその性質が推察できるとした。また、同性愛への罪意識も多く描かれている要因として、アメリカ社会全体が異性愛のみ容認する風潮だけでなく、舞台となった南部の町の「家族」や「共同体」とのつながりで生じる苦悩が根幹にあることを明らかにした。しかし、本研究の本章での目的は「CapoteのOther Voices, Other Roomsも取り上げて、2作品から性的マイノリティを意識するようになった40年代アメリカのクィアの捉え方を考える」としているので、今後は2作品の比較などを行って本章の目的を達成させる。また、本研究ともかかわる内容で1960年代のアメリカ・クィア文学も行い、ヴェトナム戦争を背景に人種、学歴、性といった様々な差別が生じるアメリカ社会の闇について迫った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究計画として、第1章にあたる「1940年代以前」の作品の精読と分析・考察とそれに伴う二次文献の調査も含まれていたが、本章の内容として海外から取り寄せる文献に頼るところが多く、その文献収集が円滑に進まなかったため、今年度に実施することができなかった。以上の理由により、予定よりも進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に実施した1940年代のアメリカ・ゲイ文学ではThe City and the PillarとOther Voices, Other Roomsとの比較にまで至っていないが、Other Voices~については繰り返し研究してきた作品ではあるので、2作品の比較を行ったうえで40年代アメリカのクィアの捉え方についての分析にまずは着手したい。同じく今年度に実施予定だった「1940年代以前」の研究にも取り掛かるが、文献数などから一番難しい項目になると思うので3年間継続して取り組んでいく。次年度に計画されている1950年代と1960年代のアメリカのゲイ文学については取り上げる作品が確定しているため、作品を精読したうえで分析・考察を進めていく。特に、60年代に関しては今年度に本研究以外のテーマで研究発表を行った際に収集した資料などもあるため、それらを活かして計画通りに本研究を進めていきたい。今年度に口頭発表した論文として発表し、次年度の計画内容は口頭発表、もしくは論文投稿に向けて準備する。また、本研究は1980年代までのアメリカのゲイ文学を対象としているが、それ以降の年代についても、そしてゲイだけでない性的マイノリティを扱った文献に関しても研究を進め、文学的観点からクィアの分析し、現代におけるクィアの在り方などについて考えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大により行動が制限され、学会がオンライン開催となったり、文献調査のため国内の図書館および海外への渡航などができなくなったため、旅費・宿泊費が縮小された。行動制限が緩和されてきたため、次年度より想定している交付額の使用を心がけ、なおかつ海外から取り寄せる文献の購入費に多くを当てる予定である。
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