研究実績の概要 |
本研究は、19世紀半ばから世紀末に一連の交流があった英米の文化人達、特に大西洋の両岸で活躍した人物達が構築していた「アメリカ文化圏」の内実を明らかにすることを目的とする。グローバル時代の先駆けともいえる「国際的」な作家・芸術家に焦点をあて、同時代に実人生での相互交流から、どのような「文化」が醸成されたかを探りたい。具体的にはHenry James, F. Marion Crawford, Robert Louis Stevenson, Rudyard Kipling, Julia Ward Howe, Maud Howe Elliottなどが残した文化的・文学的仕事に注目する。一見、ばらばらに存在する上記の作家達を結びつける鍵概念として「ロマンス」が指摘できよう。 今年度は、ジェイムズと大衆市場に関する先行研究を検証した。「孤高の作家」といった従来イメージを覆す、市場での巧みな交渉者としてのジェイムズ像が確認され、ライヴァル作家クロフォードとも同じ市場で競合していたことを明らかにできた。ジェイムズ、クロフォードら二人の作家による創作理論を検討したところ、リアリズム文学が地歩を固める時代において、スティーヴンソンのロマンス擁護とあわせて、白熱した議論が展開されていたこと、そして「ロマンス」というジャンルが台頭するリアリズム文学と拮抗する様子も確認できた。 またハウ家や関係者の伝記を検証すると、ジュリア・ウォード・ハウやモード・ハウ・エリオット達がグローバル化時代の先駆けとなって欧米にまたがりクロフォードをはじめオスカー・ワイルドやジェイムズら作家や文化人達との交流を活発に行って、国際サークルを形成し、作家達に側面から刺激を与えることで同時代の文学や演劇を深化させていた様子も浮かび上がってきた。
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