研究実績の概要 |
本研究は、「ポスト公民権運動」の世代に属するユダヤ系アメリカ人作家の作品において、アメリカの人種関係がどのように描かれ、且つ、どのようなユダヤ系の自己像が提示されてきたのか明らかにすることを目的としている。従来、社会的他者として語られてきたユダヤ系は、第二次世界大戦以降、白人主流社会の一員としてアメリカ社会に包摂されていくこととなる。そのような社会的状況の中で生まれ育った世代に属するユダヤ系作家が、従来的な社会的他者というユダヤ人像をどのように変容させているのか明らかにするため、トニー・クシュナーとアダム・マンズバックの作品分析を行う。 2023年度の研究成果は、クシュナーの演劇作品に関する研究論文1本とマンズバックの小説に関する研究発表1件である。クシュナーの論考(「想像の友情―Caroline, or Changeにおけるユダヤ人の白人性」)では、公民権運動期の南部を舞台とする戯曲Caroline, or Changeにおけるユダヤ人像を分析し、戦前生まれの世代が、被差別者という自己像を堅持するあまり、「白人」としての特権性に無自覚なユダヤ人として表象され、且つ、そのようなユダヤ人像がアメリカ黒人との関係性の中から浮かび上がるという点を明らかにした。マンズバックの小説に関する研究発表(「周縁性と真正性:Adam Mansbach, The End of the Jewsが描くユダヤ系男性作家の系譜について」)では、本作におけるユダヤ系男性作家の表象を分析した。ベローやマラマッドなど、いわゆる「ユダヤ系文学の黄金期」に属する架空のユダヤ系作家を主人公とする本作においても、アメリカ黒人との対比の中で、「白人」としての特権性と自民族の被差別性の相克という主題が探求されていることを確認した。
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