• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

エコロジーとしての人種ーーアメリカ文学における人種の理論的把捉に向けて

研究課題

研究課題/領域番号 22K00435
研究機関立教大学

研究代表者

新田 啓子  立教大学, 文学部, 教授 (40323737)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワードJames Baldwin / black feminism / slavery / racial capitalism / intersectionality / アメリカ文学 / 黒人文学 / abolition democracy
研究実績の概要

本研究は、①160年にわたる合衆国の文学作品で問題化され続ける「人種」とはなにかをテクスト研究で詳らかにし、②一定の平等化政策や司法措置を経てなおアメリカ社会に人種主義が跋扈する理由を考証することを目的としている。またそれを行うに際しては、「エコロジーとしての人種」なる作業仮説/分析概念を用いること、さらにその適用過程で、この概念を理論として練り上げる可能性を探ることを企図している。
研究初年度となる令和4年度には、本課題が問題化する政治的政策や法整備で人種問題が片付かない現象の理由を探究すべく、概念整理の作業に着手した。この現象がなぜ起きるのか、それは、人種差別や不当行為が起きる都度に立ち上げられる対処法が、特定者の利害に即した「問題解決型」争点に終始して、理念面での思索が深まらないためである。それを乗り越える道筋を、4カ年の期間で示すために、今年度はまず「潜勢力 dynamism」「アボリション・デモクラシー abolition democracy」「解放への長い道程 long emancipation」という概念の重要性をまとめながら、そうしたものの意義を伝える文学作品、理論についての執筆と口頭発表を行った。
まず日本英文学会第94回大会で、「文学の潜勢力――分節を問う、生成を辿る」と題したシンポジウムを企画して、奴隷制廃止後も、ながらく解放されていないとの認識がされている黒人の生の持続の意味をJames Baldwinの著作を介して考察した。潜勢力の出来は、政治運動や実力行使の形態を取るばかりではない人間の抵抗の深遠性と多義性の証左である。この作用を描いた南部女性作家Carson McCullersの作品論と、当該の力をより理論的に解題し、人間個体に現れるジェンダーや人種の問題を考察したJudith Butlerの著作をテーマとした書評論文をあわせて発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本来この研究では、毎年米国に資料調査に赴くことを予定していたが、Covid-19の影響が続いていたため、今年度においては、当初予定していたUniversity of MassachusettsのW.E.B. DuBoisアーカイヴへの出張は取りやめた。だが、その代わり研究初年度にふさわしい概念整理ができたことから、研究は順調に進んでいると自己評価する。年度前半には、その初動の成果を公開することができた反面、後半には、ここ2年間続けている書き下ろしの単著に取り組んだ。

今後の研究の推進方策

当初立てていた資料調査計画には変更があったが、それ以外には、研究作業上のフローに問題がなかったことが、1年間の取り組みで明らかとなった。次年度以降、今年度先送りした文献調査のスケジュールを再編成し、日本からアクセスできる資料については、可能な手段で取得して、円滑な研究の遂行に留意したい。
また、同じパンデミックが理由となって、この課題の前に進行していた私の別の基盤研究(c)の延長が続いている。同研究「第三の人種――近現代アメリカ文学における黒人エリート表象の意味とその歴史的背景」には、本課題の射程や目的と連動している点も多い。よって、研究費を適切に切り分けながら、令和5年度では、システマティックに二つの研究を進めていきたい。

次年度使用額が生じた理由

Covid-19パンデミックにより長期海外文献調査ができなかったため、相当額が余剰したが、次年度以降に順次、リサーチならびに文献取得費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 「ジュディス・バトラー『問題=物質となる身体』――Still Crazy After Thirty Years」2022

    • 著者名/発表者名
      新田啓子
    • 雑誌名

      『思想』

      巻: 1180 ページ: 133-143

  • [雑誌論文] 「命のやすさ――依存者の詩学と不確かな生」2022

    • 著者名/発表者名
      新田啓子
    • 雑誌名

      『群像』

      巻: 77-7 ページ: 145-156

  • [学会発表] コメント2023

    • 著者名/発表者名
      新田啓子
    • 学会等名
      「公開シンポジウム・教科書を考える――アメリカ研究と教育の舞台裏」
  • [学会発表] 「サハラ、あるいはインフェルノ――James Baldwinの性と生殖」2022

    • 著者名/発表者名
      新田啓子
    • 学会等名
      日本英文学会第94回全国大会シンポジアム第7部門
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi