研究課題/領域番号 |
22K00455
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
田野 武夫 拓殖大学, 政経学部, 教授 (80432897)
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研究分担者 |
クラヴィッター アルネ 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90444778)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ユスティヌス・ケルナー / ロマン主義 / メディア論 |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトでは、シュヴァーベンの医師であり詩人のユスティヌス・ケルナー(Justinus Kerner 1786-1862)の作品、特に小説『影絵芝居師ルクスによって書かれた旅の影』Reiseschatten verfasst von dem Schattenspieler Luchs (1811)を研究テーマとする。ケルナーの作品は、さまざまなジャンルやメディアの融合を通して、ロマン派初の総合芸術(Gesamtkunstwerk)として演出されている。以上の点を明らかにすることを本研究は目標とする。 ケルナーは医師として、1806年に精神を病んだ詩人ヘルダーリンを訪ね、その出会いを『旅の影』において描いている。この伝記的つながりを契機として初年度の研究計画を立てた。この計画ではケルナーと共にヘルダーリンと交友のあったウーラントやシュヴァープが共同で出版した『詩的年鑑』Poetischer Almanach(1812年)と『ドイツの詩人の森』Deutscher Dichterwald(1813年)の詩を中心に、これらの詩の根底にある自然とミメーシスの概念の考察を課題として挙げていた。 この計画に従って研究に取り組み、研究代表者(田野武夫)が2023年年3月に「拓殖大学論集. 人文・自然・人間科学研究」49号(拓殖大学人文科学研究所)にて論文『ユスティヌス・ケルナーの詩作品における自然観について』を発表した。同論において両者の詩作品を比較し、特に自然観おける共通性を指摘した。詩的自我としての「放浪者」、光のイメージの使用、人為性がもたらす苦悩と自然の対称性、二項対立の歴史的循環構造、黙示録的世界像、共和制への志向、郷土シュヴァーベンの詩的形象化などがそれである。ヘルダーリンは古典主義的ギリシア志向が強く、ケルナーはロマン主義的ドイツ中世への憧憬が強いという相違点も存在するものの、両者には伝記的史実を超えた本質的な詩的類似性があり、それはドイツ語圏の精神文化全般を特徴づけるものと結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画通り、研究代表者(田野武夫)が2023年年3月に「拓殖大学論集. 人文・自然・人間科学研究」49号(拓殖大学人文科学研究所)にて論文『ユスティヌス・ケルナーの詩作品における自然観について』を発表し、ケルナーの作品における自然の特徴とヘルダーリンとの類似性に関する分析を行った。 また研究分担者のアルネ・クラヴィッターはケルナー関連論文の執筆をほぼ終え、発表を予定している。また同氏はベルリン国立図書館でのケルナー関連のアーカイブ・ライブラリー調査を行なっており、その調査結果を発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者(田野武夫)はケルナーの小説『流浪の人々』Die Heimatlosen(1816年)と『二人の夢遊病患者の物語』Die Geschichte zweyer Somnabulen(1824年)を取り上げ、これまで解明されていない小説『旅の影』への言及を明らかにする。 研究分担者のアルネ・クラヴィッターは、ケルナー関連の論考をドイツ語と可能であれば日本語翻訳でも出版発表する。また引き続きベルリン国立図書館でのアーカイブ・ライブラリー業務に取り組む。 両者は2023年11月に明治大学で開催されるワークショップで発表し、その後、論文を出版する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響により、特に研究代表者が海外渡航や国内移動が困難な状況にあった。翌年度はドイツ国内の資料調査等、現地調査に費用を充てる予定である。
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