研究課題/領域番号 |
22K00457
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
福田 育弘 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70238476)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | テロワール / コンヴィヴィアリテ / 自然派ワイン / 共食 / 日本ワイン / ナチュラルワイン / 表象 / 飲食 |
研究実績の概要 |
2022年7月25日に早稲田大学でわたしが所長を務めるヒューマン・ナチュラルリソースマネージメント研究所の主催で日本を代表する自然派ワイン生産者である小山田幸紀氏と大岡弘武氏を招いて「自然派ワインの果て」を開催したところ、非常に大きな反響があった。220名の参加者があり、自然派ワインへの支持がとくに若い世代を中心に広がっていることが実感された。フランスの影響を受けて、日本でもワインを通して農地としてのテロワールへの関心が高まり、それが人と人を結びつけるコンヴィヴィアリテにつながっていることが明瞭になったように思われる。 こような成果をふまえ、来年度以降も、このシンポジウムを継続的におこなっていくことを決定。ただし、2023年度以降は、諸般の事情から上記研究所を解散し、テロワールとコンヴィヴィアリテの関係を考えるのにより相応しい「食と農の研究所」を新たに立ち上げることを研究員間で協議し決定し、新研究所開設の手続きをおこなった。 2022年11月に「Wa-syu」のインタヴューを受け、それが12月に2回の読み物「ナチュラル系日本ワインの風景」としてネットで公開されると(wasyu.com/blogs/feature/ikuhirofukuda_interview_naturalwine)、多数のアクセスが続いている。 上記シンポジウムの内容分析を盛り込んだ論文「日本的文化変容が日本的独自性になる過程 ― 甘味葡萄酒から自然派ワインへ ―」を2023年3月に早稲田大学教育・総合科学学術院の紀要『学術研究』71号に発表。 2023年3月に3週間、科研費を用いて、フランスのトネール地方、ボージョレ地方、アンジュ地方で自然派ワインの作り手と流通関係者(小売り店)を多数取材。フランスにおけるテロワールとコンヴィヴィアリテの関係を考えるうえで、多くの示唆を得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの長年の研究をふまえて、わたしの思考が成熟しつつあることのほか、社会状況が環境問題を意識して自然との関係を考え直す時期に入っているため、わたしの唱える「再自然化」が思った以上にフランスや日本で進行しており、わたしの分析と考察に豊富な指標や言説を提供している。これが予想以上の研究の進展をもたらしている大きな原因と考えられる。 当研究の直接の対象は近現代のフランスの飲食文化だが、グローバル化とネット社会の進展で、フランスのテロワールとコンヴィヴィアリテを軸とした飲食文化が、日本の社会に短いタイムラグで直接的な影響を与えいることも、研究の進展を促進している理由であるといえるだろう。フランスでテロワールを重視し、その考えに賛同する人が集まるというテロワールとコンヴィヴィアリテの関係性は、いま日本の農業、とくに自然派ワイン作りでみられるものである。 そもそも1980年代に台頭するフランスの自然派ワイン作りを支えてきたのは、日本のワイン愛好家たちであり、その意味で、日本のワイン受容はフランスの先をいっているといえる部分さえある。つまり、フランスのテロワールとコンヴィヴィアリテ研究は、日本における自然派ワインの研究と直結しているのである。世界的文脈からみれば、このフランスと日本のワイン文化の同時性がわたしの研究を思いのほか進展させている大きな理由であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
日本のワイン受容とフランスのワイン受容の連動を軸に、テロワールとコンヴィヴィアリテの関係をさらに詳しく考察する。そこでキー概念となるのは、わたしがここ数年唱えている「再自然化」である。 環境問題や気候変動によって、21世紀の人々は自然環境と新たな関係を結ぶよううながされている。そのことがもっとも鮮明に現れるのが農業であり、農業を土台にした飲食である。こうしてテロワールとコンヴィヴィアリテは、人と人、人と土地との関係の問題としてとらえかえされることになる。 テロワールとコンヴィヴィアリテは、人と自然環境との新たな関係として考察されねばならない。これが当研究の大きな課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で行えなかったフランスでのフィールドワークを重視したため。
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