研究課題/領域番号 |
22K00472
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
横山 安由美 立教大学, 文学部, 教授 (10267552)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | フランス文学 / 15世紀 / クリスティーヌ・ド・ピザン / シャルル・ドルレアン / 『薔薇物語』論争 |
研究実績の概要 |
本研究は15世紀フランス文学の思想史的価値の再評価を目指すものであるが、令和4年度は予定通りフランスに一年間滞在して、ENS Lyonの研究員としての研究活動およびフランス各地での講演活動や資料収集を行った。当初掲げた複数の具体的課題のうち、1.「『薔薇物語』論争」の精査、2.詩作品の翻訳、3.「死の舞踏」の資料調査が中心となった。 1.については、15世紀初頭の論争資料原典を読み解くことによって、一連の論争が国王秘書官たちの文学サークルのホモソーシャルな環境に端を発することを突き止め、また、クリスティーヌ・ド・ピザンの著作『愛神の書簡』(1399)の読解を通して当時の宗教的・社会的な女性観やクリスティーヌによる反論の具体的論理を明らかにした。2.については、シャルル・ドルレアンの抒情詩のうち「老い」に関わるものを中心に翻訳に着手し、「老い」が単なる常套句に留まらず、時間の不可逆性と諦念という詩人固有のテーマに関わる切実な題材であることを発見した。3.については、クリュニー美術館や、ラ・シェーズ=デュ修道院やシャルトル近郊のMeslay-le-Granet教会の壁画等の史跡調査を行って図像の収集を行うとともに、 Danse macabreの著者A.コルヴィジエの理論の具体的妥当性について検討を行い、身分風刺の側面に注目した。なお関連する成果として、池上忠弘・狩野晃一編『チョーサー巡礼』において「クリスティーヌ・ド・ピザン」と「シャルル・ドルレアン」についての原稿を寄稿した。 この間、講演、研究会等を通して各国の研究者と十分な意見交換を行うことができ、当時のジェンダー意識形成を社会背景から考えることができた。また詩作や壁画を通した「老い」と「死」の主題についても、その集団的側面と個人主義的な表現との二面性を明らかにしつつ、その併存が15世紀文化の特徴であることを指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
滞在地リヨンのディドロ図書館が中世フランスに関して十分な書籍および電子データベースを有しており、またフランス各地での史跡調査もほぼ予定通り実行できたことから、令和4年度の主要目的である資料収集をおおむね順調に行うことができた。ただし極端な円安のために移動や滞在日数に制約があり、とりわけパリの国立図書館やIRHTでの研究調査期間を減らさざるを得なかったため、写本の現物参照が十分できなかった点は遺憾である。 フランスの高等教育機関における研究者間の交流や学会参加も予定通り実行された。 研究内容としては「『薔薇物語』論争」の精査が中心となり、ジャンヌ・ダルクおよびヴィヨンの検討には至らなかったため、今後主題の絞り込みを検討してゆきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、前年度に現地で収集した資料の整理や検討を行うとともに、女性の自発的服従を哲学史的に検討するマノン・ガルシア『生まれつき服従する女はいない(仮)』の翻訳を刊行し、ここで得られたジェンダー哲学的知見を本研究に適応したい。詩作の翻訳については後書きや解説執筆のために引き続き詩人の伝記的事実の調査を行う。さらにクリスティーヌ・ド・ピザンの『愛神の書簡』も翻訳の準備を進めたい。 研究主題は、当初の5点のうち、ジャンヌ・ダルクおよびヴィヨンに関わる部分を割愛し、15世紀フランス文学におけるジェンダーの問題と生死の問題に絞って検討を進めていくこととする。 フランスのマルセイユでの国際アーサー王学会の世界大会は令和6年度の開催となったため、同年には大会に参加し、研究主題についての中世研究者たちとの交流を目指す。また最終年度であるため、これまでの研究内容を報告書にまとめる予定であるが、令和4年度に収集しきれなかった資料の参照のために、必要に応じて渡仏して資料収集を行う。
|