今後の研究の推進方策 |
令和6年度には、令和5年度において研究課題(3)の一環として検討を開始した20世紀アヴァンギャルド芸術論の問題(マレーヴィチの芸術的/理論的営為における「顔」の問題の位置づけ)を、研究課題(1)や(2)の日本文学の問題に結びつけるための検討をおこなう。導きとするのは、『文学論』における漱石の文学的内容の形式の定義(F(焦点的印象ないし観念)+f(付着する情緒)の結合)や、『草枕』におけるヒロインの顔の描写を、同時代のキュビスムにおける感覚の分解と再統合という問題に関連づけた岡崎乾二郎の議論である(『抽象の力――近代芸術の解析』2018年)。スプレマチズムと生理学の関係は、同時代のシクロフスキーをはじめとして、マルカデ、グリガルといったのちの研究者らも指摘していたが(グリガルはシュプレマティズムの方法論的源泉として、アヴェナリウス、マッハ、ボグダーノフらの経験批判論、ヴント、リップスらの感情移入の心理学・美学、パヴロフ、ベフテーレフらの反射学の三つをあげている。M. Grygar, “Теория ‘прибавочного элемента’ Казимира Малевича”, Russian Literature, 1989, No. 3, с. 318-319)、岡崎はさらに、視覚の生理学的検討において浮かび上がる時間性が、無垢な視覚の自律性というモダニズムの神話の批判的再検討につながる可能性を指摘している(松浦寿夫・岡崎乾二郎『絵画の準備を!』2005年)。 研究課題(3)においてはさらに、ヴィゴツキーが『芸術心理学』においておこなった「主人公」概念の批判を、同時代のトゥイニャーノフによる同様の批判や、バフチンによる独特の主人公/キャラクター論と比較する作業をおこなう。
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